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アメフト未経験の22歳が渡米して、ドラフト外契約から2年でNFLの先発キッカーになった話–IPPプログラムからNFLで生き残るには?

Ames · 2026年5月1日


アメフト未経験の22歳が渡米して、ドラフト外契約から2年でNFLの先発キッカーになった話–IPPプログラムからNFLで生き残るには?

ハワイ大の松澤選手、UDFAでレイダースと契約!おめでとうございます!

そこで今日の記事では、彼が辿った軌跡を振り返り、NFLでの成功を予測…と言いたいところですが、それは色々な人がやっているみたいなので、この記事では違う視点から。記事タイトルの経歴を持つNew Orleans Saintsのキッカー、Charlie Smythについて紹介したいと思います。一気に興味をなくした日本人の皆さん、少しお待ちください。決して、松澤選手に便乗して推しチームの推し選手の宣伝をしているわけではありません。

というのも、Charlie SmythはNOファン以外にはあまり馴染みのない選手かと思いますが、北アイルランド出身でアメフト未経験からIPP (International Player Pathway)プログラムを通してUDFA契約し、育成期間を経て2025年シーズン途中で正キッカーの座を掴み取るという超絶サクセスストーリーの持ち主。2026年4月現在、IPPプログラムのキッカーで唯一の成功例と言っても過言ではない選手です。

「実際松澤選手がここからレイダースでスタメンになれる確率ってどの程度なの?」「開幕ロースターに残れなかったら終わりなの?」などの疑問を持っている方は多いと思います。そこでSmythという成功例(+他のIPPプログラム出身キッカーも軽く紹介)しつつ、IPPプログラムからNFLで生き残るために必要なことを考えてみようと思います。繰り返しますが、決して、松澤選手に便乗して推しチームの推し選手の宣伝をしているわけではありません。

1. IPPプログラムとは?

1.1. 制度について

まずは「IPP(international player pathway)プログラム」について軽く。2017年に設立されたこのプログラムは、アメリカやカナダ以外の国籍を持つアスリート(他のスポーツの競技経験あり)に対し、NFLでプレーするチャンスを提供するためのNFLの制度です。アメフトの指導の他、コンバインなどスカウトにプレーや身体能力を披露する機会を与えられるなど充実したプログラムが組まれています。

設立当初はOL、DL、RBなど、恵まれたサイズや高い身体能力を活かせるポジションが中心でした。代表例はPHIのOL Jordan Mailataですね。彼はオーストラリア出身でラグビーリーグの経験を活かしてNFLに適応した大成功例です。

1.2. 2024年からスペシャリスト解禁

年齢制限(24歳以下)やカレッジでの競技経験制限などで壁が高かったものの、2024年の制度変更で壁が低くなります。この際に、

  • キッカーやパンターといった「スペシャリスト」が公式に対象枠に
  • 各チームのPractice Squad(練習生)枠が従来の16人から17人に拡大され、1枠が「海外選手専用の特例枠(IPP Exemption)」として割り当てられる

という変化があり、松澤選手のようなバックグラウンドには非常に有利に。というのも、通常のロースター(53人+Practice Squad)に控えキッカー/パンターを育成枠として入れるのは、現実的ではありません。しかし、この「17枠目」を使えば、チームは他球団に引き抜かれるリスクを負うことなく、ポテンシャルの高い海外キッカーを練習生枠に置き、育成枠としてある程度の長期間抱え込むことができるわけです(最大3シーズンまで)。

スペシャリスト解禁により、キッカーでは2024年に Charlie Smyth (NO)、Jude McAtamney (NYG)、Alex Hale (GB)、2025年に Mark McNamee (GB)、Lenny Krieg (ATL)という5人が既にNFL入り。2026年には Kansei Matsuzawa (LV) 選手も選出されています。

2. Charlie Smythとは〜プロ入りまで

では、本題(?)のCharlie Smyth(チャーリー・スミス)について。

【プロフィール】 2001年6月26日生まれ(現在24歳)、身長体重:6'4" 210 lbs (キッカー以外もできそうな良い体格) 出身:北アイルランド、ダウン県 Mayobridge(人口1000人程度の村) アメフト前の競技:ゲーリック・フットボール(ゴールキーパー)

Charlie SmythCharlie Smyth

角度によっては格好いい (画像出典: New Orleans Saints)

2.1. ゲーリック・フットボールとは

「手を使うサッカー」とか「サッカーとラグビーを混ぜたスポーツ」とか言われるアイルランドの伝統競技です。一度やってみたい。一度でいいけど。

ボールは丸いですが、ゴールポストはH型(下部はサッカー的ゴールで3点、上部はアメフト的で1点)に蹴り込んで得点を競うスポーツ。Smythはこの競技でかなり優秀なゴールキーパーで、U-20でダウン県を優秀な王者に導く活躍を見せています。サッカー同様キーパーはキック力が相当必要で、特にSmythはフリーキックの距離と精度が高かったそう(キーパーだけど大会9得点とか出てきた)。

そんな彼は実はMayobridgeでは珍しいNFLファン(RedZoneをずっと見ていたらしい)で、18歳の頃にNFL本部に「自分のゲーリック・フットボールのスキルがNFLで通用するか試したいので、トライアウトを受けさせてほしい」とメールしたとか(ちょっと松澤さんのエピソードと被りますね)。残念ながらNFLから返信なし(当然)。

2.2. アイルランドのキッカー養成プログラムが転機に

カレッジもアメリカに進むことはなく小学校の体育の先生になる予定だったそうですが、2023年に転機が。アイルランドではTadhg Leader(元プロラグビー選手、自身もアメフト転向経験者で、ELFとCFLでプレー)が2022年にLeader Kicking というプログラムを設立し、他競技経験のあるキッカーやパンターのNCAAへの転入をサポートしていたのですが、2024年のIPPプログラムのスペシャリスト解禁を受けてIPPに推薦するキッカーのスカウトをダブリンで開始します。

Leader KickingのホームページLeader Kickingのホームページ

Leader Kickingのホームページ

それに参加したSmyth、ゲーリックフットボールで鍛えた圧倒的な脚力で才能を見込まれ(蹴ったボールの初速が段違いだったらしい)、最終選考の5人に残ります。この楕円形のアメフトのボールを蹴ったのはこの2023年8月が初めてだというから驚き。そして2024年1月、フロリダで開催されたIPPプログラムの10週間にわたる集中トレーニングキャンプに招待され、ここでも強烈にアピール。NFL Combineで16本中12本のフィールドゴール(FG)を成功、さらにUSFでのプロデーで最長60ヤードを含む10本中8本のFGを成功とスカウトの前でポテンシャルを見せます。これがSaintsのスカウトの目に止まりました。

初めてボールを蹴ってから約半年後の2024年3月29日、UDFAとして3年契約を結びました(試合経験がないゲーリックフットボール選手では史上初)。

↓この動画を見ると、初めて蹴った2023年8月時点で大分すごい

3. NO入り後、正キッカーの座を掴むまで

3.1. 2024年プレシーズン: 可能性を見せるもBlake Grupeとの争いに敗れる

2024年シーズン、Saintsに入団したSmythは練習で65ヤードのキックを軽々と決めるなど、飛距離に関してはNFL基準でもかなり凄いとNOファン内で話題でした。さらにプレシーズンWeek 1(@ARI)で、いきなり37ヤードの逆転決勝FGを決めるという鮮烈なデビューを飾りました。勝負強い。

正直ここまでは完全に天才キッカーの経緯みたいな感じで、「スターターあり得るのでは?」と真面目に思われていた(僕もポテンシャルなら圧倒的にこっちだろうと思ってました)ものの、そう甘くないのがNFLです。Preseason3週目に怪我をしたのに加え、50ヤード以内のキックにおける正確性やキックオフの観点で、前年ルーキーで結果を残したBlake Grupe (現IND)が優れていると判断され残れず。当時のHCはDennis Allenだし保守的なのは当然か。 やや運が悪かったのは、この年から現在の新Kickoff制度が始まってそちらへの適応が必要だったことですね。タッチバックで良ければSmythの脚力なら全く問題にならなかったのですが、Grupeはこの新キックオフへの対応が上手かった(24年のTB率26.9%(リーグ2位)、リターンヤード27ヤード(リーグ11位))。

3.2. IPPプログラム枠を活かし、Practice Squadで育成

では別チームを探すのか…というところで活きてくるのがIPPプログラムの「17人目の特例枠」制度です。SaintsはWaiverを通過したSmythを即座にPractice Squadとして呼び戻して再契約。IPP枠のおかげでロースターを消費しないため、控えキッカーとしてキープしながら育成できる状態に。

結果的にGrupeが年間通して怪我なく出場した (FG成功率87%)ためNFLでの出番はありませんでしたが、このRedshirts期間を有効活用してSaintsはSmythを徹底的に育成。STコーチのPhil GalianoはSmythを元Saints殿堂入り選手のK John Carney(Pro Bowl 2回)の元に送り込み指導を受けさせました。Carneyは一流のキッカーですが、引退後の指導者としての活動もかなり精力的(先述のTadhg LeaderもCarneyに指導を受けてアメフト転向したとか)。Smythは「中学・高校・大学でフットボールを蹴った経験が全くゼロで、最初はボールを蹴り出すまでの歩き方やステップでさえ自分の足を踏みかねないレベルだった」らしく、このCarneyとのトレーニングでフォーム分析、改造を徹底的にやったそうです(蹴り出す際のボールとの距離を125 inchにするか110 inchにするか、などインタビューで言ってます)。

3.3. 2025年プレシーズン:再びGrupeに惜敗しPSに

迎えた2025年プレシーズン、SmythはGrupeと再びキッカー争いを行います。今度こそポジションを奪い取るかと思われました…が、このプレシーズンにGrupeが謎の覚醒。練習でのFG成功率がGrupeが40本中ミス1本みたいなニュースがあり、キャンプでもGrupeだけはロースター固いと言われてました。結果、Grupeは2年連続で正キッカーの座を死守、Smythは2年連続でWaiver→翌日PS復帰というルートを辿ります。ただ、Smythもプレシーズンは4回のFG機会を全て決めて(50ヤード以上も2つ)確実に成長を感じました。

3.4. Blake Grupeの不調で突如巡ってきたチャンス

プレシーズン絶好調のGrupe…だったはずが、2025年シーズンは極度の不振。QB Spencer Rattlerの元でTDに辿り着けないチームで、キッカーのFG成功率が70%切るという地獄のようなオフェンスが誕生します(僕含め、NOファン皆が毎試合Grupeにキレてた)。49ersにおけるJake Moodyみたいな扱いだったと思ってもらえるとわかりやすいかも(参考記事)。辛抱強いNOフロントも流石に耐えきれず、FGを2つ外して敗戦したWeek 12のATL戦直後の11/25に2年半先発を務めたGrupeをカット。遅いくらい。

ただ、正キッカーがカットされて即Smythにチャンスが!とならないのがNFLの厳しさです。代わりにSaintsは元Browns 4巡指名のCade York(大バスト)を獲得し、Smythと正キッカーを争わせます。実績では勝るYorkとの勝負、1週間チームは飛距離、高さ、正確性、スナップからのタイミングなどを細かく比較した結果…Charlie Smythがこの競争に勝利しました!11月29日、2年目で初めてロースターに昇格します(PSの所属選手は、正式契約を結ばなくても3回は試合向けに昇格させられる、Standard elevationと言います)。

3.5. 初戦で56ヤードをいきなり成功、オンサイドキックも

昇格直後のWeek 13 (@MIA)が彼のNFL公式戦デビューになりました。直後いきなり56ヤードのFGを蹴らされてて(キャリア初トライとしてはNFL史上2位タイの距離)可哀想だなと思っていたら、何とど真ん中に決めます。これ本当に感動した。

持ってるなぁと思ったら、さらに試合終盤8点ビハインドでオンサイドキックまで完璧な回転をかけて成功させてしまいました(通称"ヘリコプター"オンサイド、下動画参照)。美しすぎる。残念ながらその後TD取れず負けましたが、2025のベストプレーかもしれない。今のルール(ビハインドの4Qしかオンサイドできない)でリカバー率って5%とかなんですよね。本当持ってる。(ちなみに、このプレー自体はGreg ZuerleinがDAL時代にATL戦で成功させてます。Watermelon (スイカ) onsideとも言うみたい)

3.6. Week 15に決勝FG、スターターを確実に

これで翌試合以降もチャンスをもらえたSmyth、2試合後のWeek15では17-7から同点に追い付いたあと、残り時間6秒から47ヤードの決勝FGを決めます。これでスターターの座が決定的に。Saintsにとっては2022年以来の残り10秒以内の決勝FG。正直前任のGrupeはこういう場面でかなり勝負弱かったのもあり、正キッカーとチームに認めさせるに十分なパフォーマンスでした。

試合後のロッカールームでHCのKellen Mooreからゲームボールを受け取り、チームメートも「Charlie!」と大合唱する中でスピーチ。

さらに、この試合でPSからの3回の昇格枠を使い切ったのもあり、4日後には新たに3年契約を結びました。劇的すぎる1週間。与えられたチャンスをフルで活かしたSmythがポジションを確立した瞬間でした。

3.7. アイルランドが熱狂

余談ですが、この頃から話題になり始めたのが故郷Mayobridge(人口1000人くらいの小さな村)での英雄的扱われ方です。毎週の試合をバーでみんなで見てるのですが、11点差→8点差のFGでお祭り騒ぎになってたり、TD後2pt選択したらブーイングが起きたり、なかなか笑えます。アイルランド出身でスターターのNFL選手、今2人しかいないんですよね(もう一人はGBのPで、パンターで盛り上がるのは難しいから仕方ない)。松澤選手が試合出るようになったら、日本でもこういうのあるんだろうか。

3.8. 3年目も競争は続く

その後も直後のWeek 16 (NYJ)では1試合で6本中5本のFG成功(61ヤードのみ外す)を決める球団タイ記録、Week 17 (TEN)では57ヤードを決めてキャリア最長FGを更新。最終成績は6試合で12/16(75%)、PAT 13/13とまずまずですが、勝負強さに加えてキッカー変わったタイミングでルーキーQB Tyler Shoughも活躍し始めて勝ち越していることもありイメージが非常に良く、2027シーズンも正キッカーとしてスタートが確実視されています。

ただ安泰というわけではなく、新たに3年契約と言ってもほぼ最低年俸で保証額はほぼゼロ。今年もUDFAでNOはテキサス大のMason Shipleyと契約していて、キャンプ次第ではカットもあり得ます。厳しい世界。

4. 他のIPPプログラム出身Kの厳しい現実

以上がCharlie Smythという(現時点の)IPPキッカー成功例です。一方で、彼と同じようにIPPプログラムの「17人目の特例枠」を使ってNFLに挑戦したキッカーは他にもいて、それを見るとかなり過酷な現実を思い知らされます。こちらも軽く紹介。

4.1. Jude McAtamney (NYG): 公式戦チャンス得るも活かせず

まずはNYGのJude McAtamney。Smythと同じ北アイルランド出身のゲーリックフットボール選手です。ただ、Smythとはルートが少し異なり、オーストラリアの「ProKick Australia」(NFLやカレッジにパンターを送りまくっている凄いプログラム)を経由してChowan(D2)→Rutgers(FBS)と進学し、カレッジフットボールでしっかり経験を積んでNFL入りしています。2024年にPro-dayでNYGスカウトに猛アピール(10本中10本決めたらしい)してUDFA契約を勝ち取り、IPP枠で育成されながらGraham Ganoの後継者として期待されていました。そして2025年、Ganoの怪我でついにレギュラーシーズンでチャンスが巡ってきます。

しかし…Week 6のPHI戦でXPを1本失敗、続くWeek 7のDEN戦で2本のXP失敗。この試合でNYGが32-33でDENに敗れたのもあり試合後に解雇。一度PSに戻されますが、11/24に再度解雇されました。その後NYGはGano復帰、Kooを経て現在はBen Saulsに。今年はどうするのかと思ったら、ちょうど今週のCFLのGlobal draftで指名されていました(1巡6位)。NFLチームと契約できるのか、CFLでチャンスを伺うことになるのか、まだ不明です。

4.2. Lenny Krieg (ATL): チャンスを得られず、NYJで再挑戦

次にドイツでサッカーをして育ったLenny Kriegです。彼もLeader Kicking出身(Leader仕事しすぎ)。元々ELF(European League of Football)で活躍していてフットボール経験的にはかなり強い方ですが、2025年のコンバインで35〜55ヤードのFGを14本すべて成功させるというパフォーマンスで猛アピール。2025年にATLと3年契約(しかもSigning bonus+保証付き)。

2025プレシーズンでも結構いい争いをするもATLで先発6年のプロボウルYounghoe Kooには流石に勝てず、ある意味予定通りPSのIPP枠へ。しかし、Kooが開幕戦で43ヤードの同点FGを外してベンチに(前年からやや不安定だったのもあり)。Kriegの出番!…かと思われましたが、ATLは外部からJohn Parker Romoと契約。Kriegがやや持っていないのが、RomoがWeek 2の試合でスーパーパフォーマンス (5/5 FG成功)をしてしまったこと。結局Romoも3週間後には成績を落としてカットされますが、ファルコンズは最終的にここでもZane Gonzalezと契約します。Romoのカット時くらいは試してあげても良かったのではと思いますが、まぁクビがかかったRaheem Morrisなのでそんな余裕ないか。

その後、KriegはATLからリリースされ、2026はNYJと契約。この選手はまだ挑戦を続けていて、NYJの先発はNick Folk(めちゃくちゃ優秀ですが41歳)が退団したばかりでCade Yorkとの競争になるので、チャンス貰えるかもしれません。

4.3. Alex Hale (GB): 有望株も怪我で出場なくCFLへ

次にGBのAlex Hale。オーストラリアのサッカー出身で、Oklahoma Stateで5年間プレーしてNFL入りしています(Prokick Australia経由でなく自分でカレッジを見つけてwalk-onから)。前2人と同様に2024 UDFA→ロースターカット→IPP枠でPSに。2024年をフルでPSで過ごした後、2025のfuture/reserve枠で再契約していたので有望株だった…と思われますが、2025年トレーニングキャンプ前、ワークアウト中の事故で負った眼の怪我で数週間の離脱。タイミングが悪いためすぐに解雇となり、IPP枠も後述のMark McNameeに奪われました。

2026年は4月にCFLのSaskatchewan Roughriders(松澤選手が指名されたチーム)と契約していて、ここで正キッカー争いに加わる模様です。

4.4. Mark McNamee (GB): CFL→NFL→再びCFLへ

こちらもアイルランド出身の元ゲーリックフットボールのキーパー。プロチームに所属しながら、24歳までソフトウェアの営業マンをしていたという面白い経歴です。テレビでNFLを見たことをきっかけに、Smyth同様Leader Kickingに参加してNFL挑戦。こちらもカレッジ経験はないものの、コンバインで14本中13本を決めてアピール。2025年にPackersとUDFA契約しましたが、同年にドラフト指名されたCFL BC Lionsへ入団(想像ですが、前述のAlex HaleがGBにいたためロースター入りは望み薄だったためかと)。ところがHaleが怪我したため、急遽IPP枠でGBと契約できることに。CFLから退団して臨みました…が、結果的にMcManusがいたためHale同様公式戦出場チャンスは得られず。Waiver→PS再契約→10/14に最終的にPSからもリリース。今季は再びCFLのLionsに入団してチャンスを伺うようです。(最新だとCharlie Smythと一緒に練習してますね、脚力凄そう)

5. IPPのキッカー(松澤選手含め)がチャンスを掴む方法は?

以上をケーススタディ的に見ると、IPP枠で入るキッカーにとって重要なことが見えてきます。

5.1. 育成期間での成長と準備

上記の例のように、IPP枠で取られるUDFAキッカーがそのまま競争に勝ってロースター入りするのは極めて稀です。松澤選手についても、Matt Gayに勝つ可能性がゼロとは思いませんが、ロースターカットからのPS所属(IPP枠)というのが最も可能性高いルートになりそう(競争相手のMatt Gayは2019年ドラフト5巡145位で当時TBに指名された選手で、その時のTBの編成責任者だったのが現Raiders GMのJohn Spytekなので、編成の信頼感は強そう)。

ただ重要なのは、IPP枠のおかげで「育成枠」として少なくとも1シーズンNFLチームに所属を続けられる可能性は高いです。プロの環境で脚力強化、フォーム修正などスキルを磨くのが最も大事だと感じます。Charlie Smyth同様、John Carneyのようなプロ指導者に教わるのもいいですね。Matt Gayについては競争相手として見ている方が多いと思いますが、サッカー出身で経験豊富なベテランなので、むしろ色々教わるのがいいと思います。

プラスで、この期間で新キックオフルールへの対応も鍵になりそう。タッチバックが35ヤードに設定されている現在、キックオフはぶっ飛ばすだけではダメです(リターン率はなんと2025年シーズン全体で74.5%)。これに対応してハングタイムが短いライナー系のキックや無回転のキックでリターンを妨害するキッカーがどんどん増えていて、元LARのJoshua Kartyのように、「キックオフが強み」でFGの精度を一部カバーできる選手まで出てきました(ハングタイム2.7秒でマフ連発、リターンしづらい)。これはキックの精度が売りで、サッカー経験もある松澤選手にとっては追い風だと感じます。

5.2. 少ないチャンスを活かす/待つこと

あとは、ほんの僅かなチャンスで結果を残す必要があります。Charlie Smythが突然巡ってきたチャンスで「56ヤード成功・オンサイド成功・決勝FGという決定機を全て決める」結果で首脳陣の信頼を勝ち取った一方で、XPミスを重ねたMcAtamneyは即解雇になりました。(ただ松澤選手について言えば、勝負弱い人がカレッジで26連続FG成功とかできるわけないので、そこは期待できそう)

また、勝負強さ以前にそもそも一度もロースターに昇格する機会がなくカットされたIPP選手がいるのも事実(プレシーズンもあまり蹴らせてもらってない)。チャンスが巡ってくる保証もないので、良い環境を探るべき。上記のIPP出身キッカーの例でチャンスが貰えたのはコンテンダーではなく若いHCのチームだったSaintsとGiantsのみ、コンテンダーのGBやRaheem MorrisのATLではPSのままだったという事実があります(もちろん、練習やパフォーマンスなどもあるでしょうが)。ただここも、現在のLVは新任HC KubiakとルーキーQB Mendozaで再出発という、比較的育成モードな状況なのは良いと思います。

さらに、最初のキャンプでカットされたとしてもそこで終わりではなく、Mark McNameeのようにCFLやUFLに活躍の場を移してキャリアを継続するルートもあります(松澤選手、CFLで実際指名されてました)。UFLでは、最近DETで大ブレイクしたJake BatesとかもNFLカット→UFLで大活躍→NFL定着、ってルートですよね。どこかのリーグで蹴り続け、長期的に育ててくれそうなチームやコーチとの出会いを待つのも重要だと思います。

6. 終わりに

皆さんが松澤選手の挑戦には注目しているかと思いますが、自分の見立てでは

  • 最初のキャンプで結果を残し、いきなり53人入り(LVの正キッカー)
  • 53人は残れず、練習生(PS)で再契約しIPP枠でLVに残る(LVの控えキッカーとして育成)
  • LVにPSで再契約されず/あるいは途中で放出、他のチームのIPP枠PSに(他チームで控えキッカーとして育成)
  • LVにPSで再契約されず/あるいは途中で放出、指名されたCFLなど他リーグでプレー

など、様々なシナリオが考えられます。

既に「ドラフト指名されず」「UDFAで契約」「CFLから指名」…など毎日色々なニュースが飛び交っていますが、今後も53人ロースターに残れる/残れない、PSで再契約する/しない、など出てくるはず。ただ、どのシナリオでも松澤選手のNFLへの挑戦、競争はしばらく続いていくのかなと思うので、焦らず応援したいです。

いずれにせよ、僕としては今シーズンはCharlie Smyth(にもTokyo Toeみたいなかっこいい呼び名欲しい)とKansei Matsuzawaを熱量高く応援するシーズンになりそうです。頑張って欲しい!

以上、久々にAI関連でない記事を書いたら楽しかったです。長文の記事、お読みいただきありがとうございました。

7. 余談:NFL選手を輩出する国には充実したプログラムがある

最後に少しだけ私見を。今回の記事ではオーストラリアの「ProKick Australia」や、アイルランドの「Leader Kicking」のように、海外のアスリートをNFLのIPPプログラムやアメリカの大学(NCAA)に計画的に送り込むための「組織的なプログラム」が出てきました。これはタレントの発掘、ビザのサポート、大学のスポーツ奨学金獲得のための英語・学業支援、そして現地のスカウトへの売り込みまでパッケージ化した仕組みです。

**松澤選手の行動力(Youtubeで勉強して、自分でテープ送る、カレッジも転校しながら大活躍)は本当に凄いなと思いますが、あんなの普通は無理です。**日本にもキッカーでもパンターでもポジションは何でもいいので、こういう他スポーツからカレッジフットボールやNFLの橋渡しになる総合的サポートプログラムができると理想的。影響力がある人が指導して作れると一番いいのですが(こういうのを作るのが何十年後かの松澤選手かもしれない、とも思ったりしますが)。

8. 参考資料

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