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AI版ペイトン・マニング?–スナップ前に守備を見抜くAIの話

Ames · 2025-12-14


AI版ペイトン・マニング?–スナップ前に守備を見抜くAIの話

徐々に話題になり始めているNOの新人QB Tyler Shough、大雨の中デザインランとスクランブルのTD2つでTBに大勝利しました。伝説!英雄!フランチャイズQB! ということで今週もnote。本当はタイムリーな話で書きたいところですが、Philip Riversの話は意味不明、Brandon Aiyukの話も別の方向で意味不明…仕方なく、「パスカバーに最近興味がある」みたいな人もいるかもしれないので、シーズン前から書こうと思っていた「守備を見抜くAI」の話にします。 ※ 記事の前に、今回は戦術関連の界隈のレジェンドの皆さん(アメフト部さん、**まこともや(DBアイランド)**さんなど)のブログのリンクやXのポストを色々(勝手に)引用させて頂いています。アメフトのプレー経験が2時間(大学1年、仮入部)だけの自分が色々考えながら試合を観られるようになったのもこの方々のおかげだったり。記事末尾でもリンクを紹介しますが、こちらでもSpecial Thanksとしてメンションしておきます。

1. NFLを観るならPrime Video?

皆さん、NFLでお気に入りの放送局はありますか? 僕はFOXかCBSかとか、解説者が誰とかは割と誰でもいい(Breesだと嬉しいけど、なお解説は上手くない)のですが、観たい試合がAmazon提供のThursday Night Football(TNF)に当たるとラッキーだなと思います。理由としてはPrime Videoで見ると画質がいい、タイムラグが少ないというのに加えて、一番は選手のトラッキングデータをベースにした「Prime Vision」が観られることです。

1.1. Prime Visionとは

AmazonがTNFの独占配信を始めた頃から、All-22 filmくらいの高さからの映像に、Next Gen Stats由来のルート図やパス成功率などを重ねて表示してくれるモードを通常の放送とは別に作ったものです。 AmazonのPrime Vision紹介サイトより 以前は「Maddenっぽく試合が観れる」程度でしたが、ここ最近は“Prime Insights”と呼ばれる新しいAI機能が次々と追加されています。「10年目のベテランのように試合を観よう」とTNFプロデューサーのSam Schwartzsteinが語るように、僕のようなプレー経験のない素人でもこれがあることで戦術等の解像度が上がって面白い。以下にいくつか例を挙げます。

1.1. Defensive Alerts (ブリッツ予測)

まずは次の動画、2023のTNFのJAX@NOを見てください。最後Foster MoreauがTDパスドロップして負けた試合。スナップ前の時点で、立ち位置に赤い丸が付いている選手が、ブリッツ(LBやDBがパスラッシュに入る)に加わると予想されている選手です。動画だとTEのHill(#7)前のLB?にまず付いていて、その後スロットWRのThomas (#13)の前にセットしているCBに新たに付いていますね。

ちなみにこの技術はかなり凄いらしく、前述のSam SchwartzsteinがThe AthleticのPodcastに出た際、Sean Paytonが「大体は'football guy'のルールと一致するが、時々なぜその選手がハイライトされるか分からないことがあって、その選手が本当にブリッツを仕掛けるんだ。ブリッツの見方が変わった」と言ってたとか紹介してました。実際に先ほどの動画でも、AIは予想していますがDerek Carrは読みきれなかったみたいで、プレッシャーを受けてパス失敗していますね。 ちなみに動画では、スロットのMichael Thomasに最後緑の丸が出ていますね。これは「Prime Targets」と言って、オープンで1st downが取れるレシーバーにもマークが付きます。

1.2. Coverage ID (カバー予測)

次はカバー予測。後で紹介する論文の話もこれに近いのですが、守備選手の位置情報、陣形、動きからパスカバーがマンカバーゾーンカバーか予測するシステムです。次の動画(2024のDEN@NO)が分かりやすいですね。ニューオーリンズ凱旋したSean Paytonにボコボコにされた試合です。

スナップ前時点の動画0:02で、動画右下に「man coverage」と出ていますね。確かにAIの予想通りマンカバーで、#84のHumphreyをマンマークしていた#1 Tailorがパスカット。これは僕でも何となくレシーバー4人にタイトにセットしているのでマンカバーかなと思うレベルですが、動きや位置どりだけからスナップ前に見えていると考えるとなかなか凄いです。

1.3. Pocket Health(パスブロックモニタリング、最新)

次は2025年からの特徴ですが、パスラッシュによるポケット内のQBのプレッシャーを可視化しています(緑が安全、赤が危険)。これも面白い。動画は今年のBUF@HOUですが、Josh AllenのINTで、HOU D#のプレッシャーで真っ赤になったポケットで慌てて投げてしまっているのがわかります。

これはOLのパスブロの評価やQBのサック回避能力の指標を出すのにも使えそう。客観的な指標があればOLの良し悪しを|数人の目で《P》|プレー見て《F》|採点してる所《F》に頼らなくてもいいので。

1.4. Four-Down Territory

AmazonのPrime Vision紹介サイトより 最初の動画にも入ってましたが、3rd down時に「ここまで進めたら4th downはギャンブル推奨!」ってラインを青で明示してくれます。「ラインが奥すぎる!もっと手前でもギャンブル!」って言う人もいそうだけど。

1.5. Prime Visionの仕組み

さて、これらの予測は「AIで」と言いましたが、実際にどうやっているかというと、

  • 全選手のショルダーパッド、ボール、審判、スティック、パイロンの中にRFIDタグ(ICタグ)が2〜3個埋め込まれている
  • スタジアムの周囲に置かれた20〜30台の受信機が、それらのタグの信号を毎秒10回拾う
  • 受信機が「このタグは今スタジアムのこの位置にいる」と三角測量して、それをAWS側で座標データに整形したものがNext Gen Statsとして流れてくる(位置情報の誤差は10数センチレベル) これによってスナップからキャッチ、タックルまでの全プレーがX-Y座標+時間の列(トラッキングデータ)として記録されます。Prime VisionのAI機能は、全部この座標データを元に**「どの選手がどれくらい近づいているか」「どのレシーバーがどれくらいオープンか」「この配置は過去のブリッツパターンに似ているか」などをリアルタイムで推定**して、中継画面に重ねているというわけです。

2. プレスナップは情報戦

「AI凄い!」という話ですが、特に面白いのは実際のプレーを見る前のプレスナップの状態で色々な情報が得られていることですよね。 これは中継に留まらず、QBやコーチにとっても大事です。攻撃側は何とか守備のカバーを読んでパス/ランを通せる穴になる部分を探し、守備側は逆に陣形からプレーを読まれないように工夫します。その工夫の代表例が、

  • Shift(シフト)/Motion(モーション):オフェンスがプレスナップで選手を動かしてプレーを予測しにくくする+対応する守備の動きから陣形の情報を得る
  • Disguise(ディスガイズ):ディフェンスがスナップ前後でポジションを大きく替えるように動き、予想されるカバーと違う形にしてオフェンスを混乱させる の近年のNFLにおける急激な増加です。

2.1. Shift/Motion

まずモーション。元々は「マンかゾーンかをチェックする(例: WRのモーションに守備がついてきたらマンカバーっぽいと予想できる)」という扱いだったのが、人数のバランスを変化させる、複数ポジションができる選手の役割を変えるなどどんどん多様化しています。特にShanahan/McVayツリーがモーションの多様で有名ですが、現在のNFLでは使わないのは敗退行為と言ってもいいくらい。Next Gen Stats の集計だと「スナップの瞬間にモーションしているプレー」の割合は2017年には4%しかなかったのが2023年には22%、2024年には28%と極端に増えています。 最近だと、CHIのBen Johnsonのランプレーでの使い方が凄いですね。

2.2. Disguise

当然ディフェンス側も黙ってやられっぱなしではなく、陣形を偽装するdisguiseで対抗してきます。文章で「2-highからローテしてCover 3に…」とか書いても伝わりにくいので、界隈でパスカバーと言えば…のまこともや(DBアイランド)さんのポストを引用する形で紹介しますが、以下のように実際のパスカバーをスナップ前に見えないようにさせてQBを混乱させています。

現在のQBは本当に大変だと思います。セーフティの位置だけでは判断できないし、motionに付いていくかだけでも判断できない。「2ハイっぽい……あ、FSが一歩前に出てきた。ポストに回ってCover1か?でもモーションにnickelがついてこないで、外CBと受け渡した。ゾーン寄り…?けどボックスのマイクはちょっと外にシェードしてるし、フロントは5メンで…」みたいなことを考えながら、必要ならaudibleでプレー変えて、モーションを指示し、プレッシャーを避けてパスを通すわけです。スナップ前後の数十秒で処理しないといけない情報が大量すぎる。 Peyton Manning (元IND, DEN)を始めとして名QBはカバーを読むのが優れていると言われますが、どんどん難しい作業になっているのは間違いないと思います。身体能力はもちろん大事ですが、QBって頭が良くないと務まらない。実際、Mahomes, Allen, Burrow, Lamar…トップQBって全員プレー見てて頭良いなと感じます。

3. 今日の研究: トラッキングデータからAIにパスカバーを予想させてみた

いつもに増して前置きが長かったですが、そんなトレンドを受けてか、毎年開催され、Next Gen Statsなどが提供したトラッキングデータを元に決められたお題で競い合うデータコンペのNFL Big Data Bowlでも、2025年度のテーマは「プレスナップ、ポストスナップ予測」でした(「Big data bowlとは?」という話は昨年の優勝チーム紹介の記事を参照してください)。 今回はこちらで優勝を果たしたチームの研究「Exposing Coverage Tells in the Presnap**(プレスナップでカバーを見破る)**」を紹介したいと思います。要約すると「**スナップ時点で、マンカバーorゾーンカバーを9割見破るAIを作ったよ」**という成果です。 https://www.kaggle.com/code/smitbajaj/exposing-coverage-tells-in-the-presnap

3.1. モデルの構築とトレーニング

カバーを読むAIモデルということで、まずは機械学習によるその構築から。提供された2022年のWeek1~8のパスプレーを抽出し、「スナップ前後のフレームごとの位置情報」と「そのプレーがマンカバーorゾーンカバーどちらだったか」の組み合わせをAIに学習させます(ここでのデータ処理で高度なことやってました(次図参照)が割愛)。 これを元にWeek9のデータで検証(位置情報だけを与えてカバー当てさせる)すると、スナップ時点までで89%、スナップ後1秒までに93%の精度で予測できることが分かりました。 (出典 https://www.kaggle.com/code/smitbajaj/exposing-coverage-tells-in-the-presnap より)

3.2. モーションにも釣られないAI

これだけならAmazonのCoverage IDと大差ない(あれはデータをもっと大量に使ってますが、95%精度で予測できるとか)のですが、面白いのはどのタイミング、どの点から予測ができるかなど細かい部分を公開してくれているところです。 例として、次のCAR@CIN (2022 Week 9)を見てみましょう。左上が実際の映像、右がトラッキングデータ、左下がモデルの予測(横軸が時間、縦軸がゾーンカバーである確率)です。 https://vimeo.com/1042562986?fl=pl&fe=sh 見るべき点は3点で、

  1. 動画開始直後CARのWR(#12, Shi Smith)がモーションした際、対していたCINのNickel (#35, Jalen Davis)がついていったのを見て、モデルはマンカバーの確率が上がったとまず判断(グラフで急激に確率が落ちる)
  2. ところが、動画0:03でCINの#35がモーションしたWRより内側で止まり、LB陣がシフトしたのを見て、これはDisguiseのゾーンカバーだとAIは判断(ゾーン確率が9割に戻る)
  3. さらに、動画0:05からCIN S (#30, Jessie Bates)がディープにシフトしたことでゾーンカバーと確信(ゾーン確率98%に) というように、一見分からないカバーを、微妙なシフトやニュアンスから読み取っていることが分かります(正直、僕は1までしか分からない)。

3.3. 学習ツールとしての利用: Disguiseを見抜くのに誰に注目すればいいかわかる

さらに面白いのが、筆者はこれが「フィルムスタディの助けに使えるよ」と主張しています。次は2022-2023のLAC@JAXのプレーオフ、LACファンのトラウマ逆転負けの試合)でTrevor LawrenceがLAC D#の巧みなdisguiseに騙されINTされている例。 https://vimeo.com/1044365251?fl=pl&fe=sh

  • 動画0:01〜0:04でLACの画面奥側S(#24, Nasir Adderley)が前に移動し、手前のS(#32, Alohi Gilman)が下がることでCover 1 Robber(マンカバー)っぽい形に偽装
  • しかしスナップ直前から奥側S (#24)が後ろに下がって、本来のCover 2(ゾーンカバー)の形が分かる
  • これに気づかなかったLawrenceはゾーンを守っていたCB(#26, Asante Samuel Jr.)にインターセプトされる。 という流れですが、動画0:05から動画を静止させて、**奥側のSがどう動くかでマン/ゾーンの確率が大きく変動する(前に行けば)**ことをモデルが示しています。QBがfilm studyの際にこのモデルがあれば、「この手のDisguiseだと、スナップ直前にSが前か後ろか見ておけばマン/ゾーンが区別できるんだな」と勉強できるというわけです。 論文中ではもう1つ似た例として、2024のDEN@TBでBaker Mayfieldがゾーンカバーを見抜けずINTされた例を出してます。 https://youtu.be/GTQb3nncZxc?si=OV0Cj6MsuXS9Vt0S
  • DEN D#は手前のS(#22, Brandon Jones)のみが下がるCover 1の様子で、特に**動画手前から2番目のレシーバーのMike Evansは目の前にCB (#2, Patrick Surtain II)**がプレスカバーでマンマークしているように見える
  • Mayfieldはこの陣形からMike Evansが1 on 1になると予想して投げるも、実際には偽装したCover 2で、このサイドを守っていたS (#22, Brandon Jones)にピックされてしまう
  • しかし、モデルは一番手前のCB2 (#29, Ja'Quan McMillan)がプレスではなく5ヤードオフの外側にセットしていることからゾーンカバーと見抜いている という形です。1つ目の例だとAdderley、2つ目の例だとMcMillanなど、ディスガイズの中でも本当のカバーの形を露呈している選手というのがいます(論文だと"giveaway"と表現)。これを検出できて、フィルムスタディの際に役立つというのが筆者の主張です。面白い。

3.4. チーム別の学習ツールとしての利用

さらに論文での解析は進み、チーム別で「どの選手に注目すればカバーを露呈しやすいか」まで出しています。「0.5秒以内に10%以上予測確率の変化が起きている例 = 特定の動きがカバーをわかりやすくしている例」を抽出して、その際に移動距離が大きかった選手を解析。「JetsならSの2人がdeepにシフトすることでゾーンカバーが想像でしやすい、MIAならCB Howardがプレスカバーからの動き出しが速いからdisguiseが分かりやすい」のような超実践的な情報が得られてくるそう。 NE目線で同地区の守備の解析らしい。著者NEファンなのか? これはモーションがない場合ですが、モーションした場合にマンカバーとゾーンカバーでどう守備の動き出しが違うか、誰に注目していたら判断できるかとかも解析できるそうです。CARでやった例の画像が以下。 モーションをした場合に、パンサーズの守備がどう動くかのヒートマップ的な例。この情報を試合前に得ていたら大きいのは容易に想像できる

3.5. 余談:著者はPHIに引き抜かれ済み

ここまで来ると凄すぎて、この著者何者…?と思ったら、なんと大学の学部生2人でした。サポートは色々あるみたいですがそれにしても優秀すぎる。 「学生なら、卒業後作戦担当で雇った方がいいのでは…?」と思ってしまいますよね。何と調べてみたら、何とこの研究でコンペを優勝した2ヶ月後、著者のSmit Bajaj実際にEaglesに雇われています。さすがHowie Roseman…と言いたいところですが、まぁOCがダメだとあまり意味ないですね。守備のカバーが読めているようには見えない。

4. まとめ

以上、長々と説明しましたが、トラッキングデータと機械学習を合わせたAIの進歩は本当にすごいです。我々視聴者に実際に利用できる形だとTNFのPrime Visionがあり、そのブラックボックスである予測モデルの中身が見られるBig Data Bowlもある。そしてこれらを活用して戦術をさらに高度化させてゆく各チームのコーチ陣。本当にNFLが面白く、プレー経験のない人間でも戦術がわかりやすい時代に観られていることに感謝です。 ちなみに2026年のBig Data Bowlのテーマは「トラッキングデータを用いたパスプレーの予測」でした。最近自分もPythonができるようになったし、仕事柄論文は書けるので「Goal line fadeが決まりにくい」とか話に絡めて応募してみようかなと一瞬思いましたが、締切が今週で断念。。。来年こそやってみようかな。 こちらも、ファイナリストに残るチームの研究はきっと面白いので、来年また紹介します。長文の記事、お読みいただきありがとうございました。 関連記事

5. 参考資料+お世話になった二人の紹介

アメフト部さん (@AmefootClub) 「アメフト部」で検索すると各大学チームの公式HPを押しのけて一番に出てくるらしい。凄い。ブログの戦術関連の基本のブログ記事が本当にわかりやすく、コーチ別のスキーム記事もありがたい。 Xでもいつも記事読んでくれるいい人。カレッジのOle Miss推しだそうですが、アイコンの色合いはどう見てもSaintsファン。 https://amefoot-club.com/category/%E3%81%8A%E5%8B%89%E5%BC%B7/ https://amefoot-club.com/academic-football-kyle-shanahan-offense/ まこともや(DBアイランド)さん (@FitzNFL) 特にDBに特化されている専門家。 フォローしていると普段から面白いカバーやディスガイズの動画が観られてお得ですが、良いDBのランキングとか、コーチごとの特徴もまとめられていて本当に参考になります。今年出されてた「150種類のNFLパスカバーを分類」は正直狂人だと思いました。アナリティクスや指標関連もすごく詳しくてかっこいい。

https://nfl-cardinals.com/all_passcover TNFのPrime Vision関連

  • https://www.aboutamazon.com/news/entertainment/thursday-night-football-amazon-prime-video-ai-features この記事が各機能紹介していて分かりやすいです。https://note.com/preview/nf94b7cd2ba41?prev_access_key=bde388e19fcf2e213fd2553f7397929b
  • Sam Schwartztein氏 (@schwartzsteins)がリードしているらしく、興味があればフォロー推奨。

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