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戦力低下を防げ!所属選手の逮捕率を下げる秘策とは?

Ames · 2022-05-15


戦力低下を防げ!所属選手の逮捕率を下げる秘策とは?

諸事情で非公開にしていたのを再公開しています(11/20/2024)

1. イントロ

1.1. オフシーズンの風物詩

オフシーズンの目玉イベントといえば先日行われたドラフト…ですが、もう1つ忘れてはいけない(?)のが、毎年恒例のプレイヤーの不祥事、逮捕、それに伴う出場停止処分です。最近の話題だと、出場停止レベルではなさそうですがこの人ですね。 NOファン的に痛かったのはAlvin Kamara(RB)の逮捕です。新人年から現在まで5年連続でプロボウル。スピードの緩急が自在、体が大きくないのに全然倒れず、レシーブもめちゃくちゃ上手いという大好きな選手です。これまで素行悪いイメージなかったのに、プロボウル当日にまさかの逮捕でした。フィールド内では全然捕まらないのに。

選手が逮捕されると、悪質な犯罪の場合は即リリース、そうでなくても出場停止処分が下ったりと、戦力の低下は避けられません。記憶に新しいところだと、2018年のKareem Huntが女性に暴力を振るっている映像が公開され11月下旬でのリリースとなりましたが、それまでの大車輪の活躍を考えると、ChiefsがPatriotsに延長で敗れたその年のAFCCの結果にも少なからず影響したように思います(たらればを言っても仕方ないですが)。 このように、自軍の選手が犯罪を犯す/逮捕されることがないように管理するのは、戦力/キャップ管理などの観点からもスーパーボウルを狙う上で非常に重要です。

1.2. 贔屓チームの逮捕者、多すぎ?

実は、逮捕者はチームによってかなり数が違います。NFLArrest.comとかいうサイトによると2000年以降では最多がMINとDENの55(Jeudyがサイトでまだ反映されていません)、最小がHOUの16。 要因としてホームの都市の治安、一部の選手(CINとTENに在籍していたCBのAdam Jonesは累計10回逮捕されています)などは当然ありますが、一方で「**うちのチームは規律が緩いから逮捕が多いんじゃ?チームの組織運営・カルチャーに問題があるのでは?」**といった疑問を持つファンの方も多いのではないでしょうか(NOファンの自分は経験あります)。

2. 今回の論文

そこで、その中でも特に 「フロントオフィスのジェンダー・人種の多様性が選手の(フィールド外での)逮捕率に影響しているのでは?」 という仮説を調査したのが、2020年に発表された今回の研究です。2003-2014の12年間で、NFL全チームの(勤務時間外での)各年の逮捕件数と、その年にチームの運営に関わる組織人員の属性(女性比率、マイノリティ比率)の関係を調べています。 タイトル:Women Executives and Off-the-Job Misconduct by High-Profile Employees: A Study of National Football League Team Organizations (女性幹部と著名な被雇用者の勤務外不法行為の関係:NFLのチーム組織を例とした研究) 著者:Mary Graham, Bhavneet Walia, Chris Robinson (シラキュース大学、テュレーン大学) URL:こちら(論文の研究内容ををまとめたウェブサイトを著者が作っています)

3. 研究結果

3.1. 一定数以上の女性を経営陣に入れる効果は非常に高い

リサーチの結果、2人以上の女性がExective(経営に関与する幹部クラス)に含まれる場合、その年のチームに所属する選手の逮捕者数が21%減少することが分かりました。また、その年に逮捕者が出る可能性自体も15%減少することも分かりました。

3.2. 人種的マイノリティの数とは明確な相関なし

一方で、経営陣に人種的マイノリティを増やしても逮捕率が下がる効果は見られませんでした。 ただし、NFLというのは68%が黒人選手のリーグなので、一般的な意味での「人種的マイノリティ」を増やすのとは全然違い、この分析は不完全な可能性があるとい著者は補足しています。 ※ これは個人的にも同意です。選手に1人もいない属性である女性を加えた場合の変化と比べると、同等の効果は期待するのは難しそうです。また、今回は逮捕者にのみ着目した研究なので、他の要素で人種の多様性がチーム運営に好影響を及ぼす可能性は当然あります。 https://theatlas.com/charts/BJ8fvBNym より

3.3. 女性が経営陣に持つ権力の大きさとは関係なし

上の補足として、経営学の理論を使って経営陣内で女性の権力の総量(各役職の差を考慮)したところ、それによる影響は出ませんでした。重要なのは人数です。

4. 疑問点の補足(飛ばしても大丈夫です)

4.1. なぜ勤務時間外に限定?

今回の論文の目的が、「組織運営がどう不正行為に影響するか?」という経営学的なものなので、仕事中の不正行為(禁止薬物、試合中の暴力など?)はHCなどの影響が大きそうなので除外したそうです。

4.2. 逮捕率が下がったのは各チームの治安など他の要素の影響では?

著者も最大限考慮しています。今回の分析では次の要素も含めて補正しています。 年度、地域、従業員数、フランチャイズが何年目か、経営組織が何年目か、 給与、チームの勝率 チームの経営陣・コーチに対する評価・スタジアムの評判(これらはESPNのファンへの調査データより) これらの要素が異なる場合でも、「2人以上の女性経営陣が逮捕率を下げる」という効果が変わらないことを確認しています。

4.3. なぜ女性が「2人以上」?

Critical Massという、集団の中で存在が重要になる人数(≠多数派)があり、今回の場合はそれが経営陣における2人以上であるという理論に基づいているそうです。1人だけだと効果が少なく(軽視されてしまう)、3人以上にした際には1人→2人の時ほどの差は出なかったらしいです。

4.4. 不当逮捕もあるのでは?

著者もこの点の限界は認めていて、当然あります。一方、その逆に不法行為を犯しながら逮捕されていないケースもあります。完全に正確な各チームの不法行為の数を得るのは不可能なため、逮捕数を目安として使っているそうです。

4.5. 逮捕と言っても罪状が色々あるのでは?

これもYesです。犯罪の種類別(経営方針が影響しそうな犯罪とそうでないもの)の差も調べたかったものの、データの数が限られるため難しかったとのことです。

4.6. NFLは逮捕率が高すぎて結論を一般社会に当てはめるのは無理じゃない?

驚くことに、NFL選手の逮捕率はアメリカ全体よりも低いです(論文があります笑)。

4.7. 女性を増やすと逮捕率が下がる理由は分かっているの?

著者の仮説は「組織のカルチャー、戦略、方針決定に女性の存在が影響するから」です。これをサポートする経営学、社会学の理論も示されています。 ただ、さらに根拠を示すため、女性経営陣を導入したNFL/NBAチームに対するインタビューや、より細かいデータ(逮捕された選手のプロファイリングなど)の調査を次の研究対象として予定しているそうです。

5. 余談

5.1. 論文の一部が削除され、著者怒る

実はこの論文、3.3. で書いた「人種的マイノリティの数は関係ない」という結論が論文の本文に載っていません。 著者は「NFLの特殊性が理由の可能性があること」などの議論も含めて載せたかったのですが、論文の審査をした編集者が外して付録に回すように要求したそう(著者が自分のホームページに書いていました)。 おそらく、「人種的マイノリティを入れても関係ない」という部分だけが切り取られて拡散されることを危惧したのかなと思います。最近のアメリカのトレンド的には条件付きとはいえ非常にまずい結論ですし、研究はフロントの話ですが、尾鰭がついてルーニールールの是非とかにまで話が広がりかねません。 ただ、調査・考察をまとめた著者は気の毒です。何ともアメリカらしい話。。。

5.2. 著者もNFLファン

この論文はSyracuse大学の教授2人(スポーツ・人間運動学科)と、Tulane大学にも籍を置く弁護士1人によるものですが、3人ともNFLファンで応援チームは

Graham教授:ビルズ Walia助教授:ベンガルズ Robinson弁護士:イーグルス(自身も高校時代にCでプレイ、最近はNBAのBrooklyn Netsでサラリーキャップ管理の仕事もしていたそう。)

だとか。研究の合間にNFLトークで盛り上がってたりしそうですね。自分も、共同研究者とNFLの話題とかあったら良いのになぁ…と思いました。

5.3. NFLの研究以上の意義(Amesの感想です)

現在、男女格差の是正については国/分野問わず多くのところで話題になりますよね。日本の会社の女性管理職の少なさが問題視されるようになって久しいですし、私のいる研究者の世界でも「女性限定公募」について論争がよく起きます(←読んだことがある方なら分かると思いますが非常に不毛です。twitterは文字数制限で言葉足らずになる上、誰でも割り込めるし論点もずれるので議論に向いていません)。 この手の話が進まない理由の1つが、「多様性を上げる」ことの実用的なメリットが示されず「格差是正」「公平/不公平」がメインの争点になってしまうことが多いからだと思います**。「現在の女性比率が問題だから是正すべき」という主張だけでは「それは前の世代の責任」「逆に男性に不公平」という反論を食らいます。ネガティブな要素の解消に加えて、ポジティブな効果も主張すべきです。 今回の研究はその点で、NFLに限らず学術的に意義がある研究だなと思いました。ジェンダー多様性が上がることで、「逮捕率が下がる」という明確で賛否の余地がないポジティブな効果が生まれることを示しているからです。「**多様性があるとイノベーションが生まれるんだよ」「女性視点は大事なんだよ」と言われてピンと来なくても、「多様性があると社員の逮捕率が20%下がるんだよ」と言われたら意味があると感じる人もきっと多いですよね。このような分かりやすいデータを積み上げてゆくことは大事だと思います。

6. まとめ

(ややセンシティブな話題なのもあり)長くなりましたが以上です。論文の結論としては、「経営陣には2人以上女性を入れよう、逮捕率が有意に(2割)下がります」ということでした。 ちなみにセインツは結構逮捕者多い(この1年で3人、計30人)なのですが、オーナーは女性(Gayle Bensonさん)なんですよね。まぁあれだけ女性問題で疑惑があったDeshaun Watsonに自ら会いに行くくらい本気で取りに行ってた人だから関係ないのかも。

アナリティクス的な論文も面白いのですが、こういうフィールド外の話も面白いですね。「NFLの試合の日は犯罪が増えるか?」「スーパーボウルの開催都市は経済効果がある?」という研究も読んだので、次回ここら辺をやるかもしれません。 もし何かリクエストがあれば、リプライ/DM/質問箱などでお願いします!

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