Doinkalytics: シン・キッカー評価法
Ames · 2025-09-11
2025年開幕記念!ということで久々にnoteです。 タイムアウトなしで前半終了直前に59ヤードを決めたHarrison Butker (KC)、FGとXPを外して1点差で敗れて苦いデビューとなったAndre Szmyt (CLE)、「まだ現役だったの?」と相手選手に驚かれながら決勝FGを決めたMatt Prater (BUF)など、キッカーの話題が多いWeek1でした。今日はその中でも|Jake Moody (SF)《大バスト 》の話を中心にしながら、キッカーについての研究を紹介します。
1. イントロ: Jake Moodyの2年間+1試合を振り返る
(注: このパートは丸々飛ばしても影響は出ません) Week1直後、49ersのキッカー、Jake Moodyのリリースが発表されました。2023年のドラフト3巡99位指名からまだ2シーズン+1試合というタイミングだけ見ると衝撃的なニュース……ではないですね。遅いくらい。
いつから扱いが変わったか思い出せずXで検索してみたところ、好調だった2023のルーキーシーズン当初は基本的に応援されていました(当たり前)。潮目が変わり始めたのが**LARとの最終戦で38ヤードとXPをミス(1点差負け)したところ。続くプレーオフでも毎試合ミス(50ヤードとかではなく)**とかなり不安定な出来。以下のツイートと反応を見ても、NFCCのライオンズ戦でミスした時にはルーキーを温かく見守る空気は完全に終了していたようです。|前任者《Robbie Gould 》がプロボウル常連でもないのに異常にプレーオフは勝負強かったのもあって49ersファンはプレーオフのFG失敗に厳しめ…なのを差し引いてもなかなか酷かった。
とはいえ、1年目のFG成功率は84% (21/25)(既に低いとか言わない)。 さらにSuper Bowlでは勝負強さを見せ、55ヤード含め3本ともFGを決めます(XP外したけど)。即リリースしようという雰囲気ではなく2年目へ。
続く2024シーズン、シーズン序盤こそ好調でしたが怪我で離脱し、復帰した11月のTB戦が転期に。3本のFGを外してDeebo Samuelがブチギレます。 その後も12/31のDET戦 (2 FG miss+ XP miss, 6点差負け)など孤軍奮闘するPurdyの足を引っ張る展開が続き、通算で**2年目の成功率は70.6% (24/33)**でした。 (参考) 2024シーズンのFaithfulたちのツイート:1 2 3 4 56
そして迎えた2025シーズン、トレーニングキャンプでGreg Josephと競わせるという話にファンが歓喜したのも空しく、先発を勝ち取ったMoody。 しかし前シーズンと変わらないどころか悪化して、Week1で27ヤードをDoink、次の38ヤードはブロック。Kyle Shanahanがこんな反応してるの初めて見ました。ファン達も カットされない 理由を 考え始めた 矢先のリリースとなりました。判断が遅い。今週のFaithful達の反応をまとめようと思いましたが、多すぎて断念。
2. 今日の研究: キッカーの能力を正確に測ろう!
2.1. キッカーの能力指標は「FG成功率」でいいのか?
さて、前置き(?)が長くなりましたが、今日のメインテーマは研究紹介です。 以前の記事で「ラインバッカーを正確に評価する指標がない」という話を書きましたが、キッカーというポジションも同様に評価が非常に難しいポジションです。チームに一人なので表彰系(プロボウルなど)は両リーグ1人ずつ。順位はつけられません(プラス、記者やファンの印象になる)。PFFは一応Grade出してますが、これも人の目だし基準が公開されていない以上データとして扱うのは微妙。 スタッツとしてよく使われるのはFG成功率ですが、キッカーによって蹴る回数も違えば距離も違う。20ヤードを10回蹴って10回成功したキッカーと、50ヤードを10回蹴って9回成功したキッカーのどちらが上とか言えませんよね。Moodyの後任のPineiroが今週「史上3番目に正確なキッカー」とか言われてましたが、これこそバイアスです。
それなら「距離を考慮して成功率を補正すれば?」と思うかもしれません。しかし実はこれでも不十分。というのも、
- 同じ距離でも状況(天気、風、気温、標高、etc)でキックの難易度が変わる (例) 有名な“Tuck Rule”ゲームでAdam Vinatieriが決めた吹雪の中の45ヤードは、ただの45ヤードキック成功と同じ難易度として扱っていいのか?
- 決めた/外したの2択ではなく、それぞれのキックには“質”がある (例) Justin Tuckerは真ん中から0.15ヤードのズレで通した決勝43ヤードは、Doinkして入った43ヤードと同じ質として扱っていいのか? といったように、同じ距離すら難易度が状況によって異なり、成功/失敗の二元論ではなくキックの質も区別したい。キッカーの実力を運の要素を排除して正確に語ろうとすると、(FG成功数)/(FG企図数)だけでは決められない複雑さがあるのが分かると思います。
2.2. 「真のキック難度、キックの質」を評価する指標を作ろう!
そこで今日の研究。 "Doinkalytics: A New Paradigm in National Football League (NFL) Placekicking Evaluation (NFLのプレースキック評価の新たなパラダイム)" Dube, Lorenzo; Queralt, Samuel; Fink, Joshua; Goldsberry, Kirk; Bushong, Vanna, MIT Sloan Sports Analytics Conference 2025. MITで毎年行われているスポーツアナリティクスの学会で発表された論文です。著者が'Doinkalytics (Doink + Analyticsの造語)'と名づけた今回の分析法では、 キック難度: キックの状況難易度を表す指標"STUD+" キックの質: キック通過位置の質を表す指標"Command+" という専用の指標を当て数値化します。最終的にこれらを合成することで、総合的なキッカースコアを出す設計を紹介しています。“決めたキックの入れにくさ×キックの入れ方の良さ”でキッカーを二次元評価するというイメージで、ここから詳細に説明します。
3. 新提案のスタッツの詳細
3.1. キック難易度指標 "STUD(Split-The-Uprights Difficulty)"—そのキックは何%入るか?
まずは「キック難易度」のスタッツの方から。
過去10年(2014-2024)に屋外で蹴られたFG合計7635本を学習データとして使い、FGが蹴られた状況(距離・風速・気温・降水・地面(Grass/Hybrid/Turf)・標高・凍結)を入力にして、成功確率(=STUD)を推定します。
【統計の専門ではないけど、噛み砕いて説明してみると…】
(分かる人は飛ばしてください)
例えば、「FG全てで集計すると、晴れだと90%成功、雨だと85%成功」というデータが仮にあると、「雨だと5%成功率下がるのかな」と人間でも想像できますよね。
このような推定を、上で挙げた要因(距離・風速・気温・降水・地面・標高・凍結)全部+実際のFG成功率の関係をデータとしてAIに与えることで、どの要因がどのくらいFG成功率に直結するかを推定できます(機械学習)。そうすると、新たな距離や風速、気温などの条件が出た時に、AIが**「その条件のキックなら何%で成功するはず」と予想してくれるモデルを作ってくれる**というわけです。
さらに、7635個のデータ全てではなく、75%を学習に使ってモデルを色々と作ることで、残り25%の学習に使ってモデルの性能を確かめられます(モデルが50%と予測したら、ちゃんと50%の成功率になっているか)。これによって、精度の高い良い予測をする担保が取れたモデルを選べます。
結果完成した、精度の良かったモデルが次図です。(横軸が距離、縦軸がFG成功確率の推定で、赤が屋内(ドーム)、青が最悪のコンディションの屋外)
論文より抜粋。以下の図も全て同様
縦向きにで見ると「最悪のコンディション(風強い、雪、凍結とかでしょうか)だと、ドームで90%近く決まる40 ydsでも70%くらいしか入らない」といったことが見えます。また、横に並行移動して眺めると、「悪条件での●●ヤードは屋内の○○ヤードの難易度に相当」みたいな比較もできて、論文で実際に挙げている例では、「2023シーズン最終戦でNYJのGreg Zuerleinが外した49ydsのFGは、12MPH以上の風速で–4°Cだったので屋内では58ヤードに相当」とか紹介してます。なかなか面白い。
3.2. STUDを使えば、選手の実力が算出できる!
そして、先ほどのモデルを使うと、各キッカーの年間パフォーマンスを計算できます。 【「どういうこと?」と思う方が多いと思うので、詳しく説明】 先ほどのモデルを使うと、あるキッカーが1年で蹴った全てのキックの状況について、成功確率が出せますよね(例: Week 1のこのキックは40ヤードで屋内だから92%、Week 2のこのキックは50ヤードで屋外で風強くて雨降ってたから40%)。
これを使うと、 **EP (expected points, 得点期待値) ** = 該当キッカーが成功確率通りにキックを決めていた場合の合計得点 = 「各キックの成功確率 x 3点 (FGが決まった場合に得点)」の合計
のように、そのキッカーが1年で稼ぐ点数の期待値が出ます。 これに対して、 **AP (actual points, 実際の得点) = 実際にキッカーが決めたFGの数 x 3 **
も分かるので、差 (AP–EP)をとることによって、 **EPA (expected points added, 得点期待値加算) ** = 確率で予想されるより、どれだけFGを決めて得点を増やしたか = 選手のキッカーとしての貢献 が分かるわけです。
実際には、キッカーごとにキック回数が異なることを考慮して、キック回数でこれを割った「EPA/kick (1回のキックあたりの期待値以上の貢献)」がキッカーの価値の指標として使えます。
(↑ここは、EPAという指標がQBなどでも最近よく見られて、考え方は同じなので詳しめに解説してみました。QBの場合はよくEPA/attempt(パス1回あたりの得点期待値加算)が使われます。たまにTLで見るのではないでしょうか。)
計算部分が長くなりましたが、2022-2023で取ったデータを論文で出してくれているのが下図。縦軸がAP/kick (実際の得点)、横軸がEP/kick (期待値得点)です。
こうして見ると、例えば(49ers関係中心ですが)次のようなことが読み取れます。
- Jake Moodyは、まだマシだった2023でも平均未満
- 一番右のRobbie Gouldさんは簡単なキックばかり蹴ってるけど、その期待値以上に決めてるので普通に優秀
- Week 2からの新キッカーのPineiro、この2年だとかなり優秀
- 緑の点で表の左側に来ているMatt Prater, Greg Zuerleinのような選手たちは、「成功確率は低いが、難しいキックをやたら蹴らされてるためでパフォーマンスはそんなに悪くない」
- 表の画像を縦に伸ばさないといけないChad Ryland (現ARI)、やばい FG成功率で比較するのは、横軸(期待値)を無視してこの縦軸だけ見ていることになるわけです。そうすると、「McManusもBoswellも微妙だな」といった印象を持ってしまいかねない。ただ横軸を考慮すると、文脈を考慮した色々が読み取れるわけです。
3.3 キックの質指標"Command+"—キックはどこを通ったか?再現性は高いか?
そしてもう1つの「コマンド」という指標。これは野球のコントロールの指標でよく聞くやつと多分同じ(野球詳しくないので違うかも)。キックのLocation(横方向の通過位置, 真ん中ほど高スコア)とConsistency(キック通過位置の再現性、小さいほど高スコア)でスコア設定して、この平均でCommand+(0–100)と定義します。キックがより真ん中で、ばらつきが少ない人ほど高得点になるというわけですね。

3.4. キッカー総合指標"Kicker Score/Grade": STUD(補正済み成功率)とCommand(正確さ)を両方考慮
そして最後に、以上2つをまとめて、縦軸をSTUD+(難度調整した成功率)、横軸をCommand+(キックの質)でプロットしたもの(下図)を出しています。
面白いのは、やはりこの2つは強い相関があって、大体はばらつきが少ないの選手ほど成功率も高いんですね。一部例外で、成功率高いのにコマンド低いGreg Zuelein(難しいキックに強い?)とか、あまり成功してないのにコマンドは高いMason Crosby(真ん中に蹴るのに拘ってない?)とかいるのも興味深い。
そして最後にこれら2つを元に、Kicker Scoreという最終指標を計算、それを100点満点で相対化したKicker Gradeというのを計算しています。2022-2023のデータですが、このメンバー見るとまぁ納得ですね。
Moodyは2023でもワースト4位、やはりコマンドが低い2025キャンプでMoodyに負けたGreg Josephはワースト5位Top5勢は納得、Cairo SantosはMNFで外してた
4.その他、余談など
その他、この手の論文では書くのがほぼルール化されている内容として、
- 研究の応用先:
- 研究の限界: というのが挙げられています。納得ですね。 余談ですが、少し残念なのは、この手法はあまり有名になっていなくて(著者がNBA側の人なのもあり)、おそらく著者運営のField Goal Botとかいう実際のキックのSTUDを計算して投稿し続けるシュールなアカウントが2024にありましたがそれだけで、更新も止まってしまっています。PFFのKicker Gradeとかより良さそうな気がするんですけどね。
5. まとめと感想
ということで、テレビで見ても、現地で見ても、論文を読んでも、指標を眺めても、結局Jake Moodyはバストでした。 一方で、Shanahanが3年目まで諦められなかったのも個人的にはわからなくはなくて、今回データを色々見ていて気づいたのですが、キッカーのパフォーマンスって年によって全然違います。2023は誰が見てもオールプロだったBrandon Aubreyも2024はやや落としましたし、先ほどの論文でルーキー年でワースト5に入っていたChad Ryland (現ARI)もBlake Grupe(NO)も2年目以降徐々に成長し、今でもロースターに残っています。Moodyが定着するかも…と思ったのも分からなくはない。結構精神的なものは強い気がしますし、ミシガン大時代は本当に正確なキッカーだったはずなので、環境変えて頑張って欲しいですね。
6. 次回予告
どの程度需要があるかは不明ですが、今年はty9zoneさんの「こんなシーズンこそ呟こう」ポストに触発されたので**「Saintsが勝ったらnote書く」**という企画をスタートします。 49ersを入れないのは、Saintsだけでもかなり書く可能性のある週が絞られそうだからです。毎週書きたくはないですが、年間ゼロは厳しい。 サラリー系もありますし、最近論文は色々読んでるのにnoteにしてないのでネタだけは大量にあって切れることはなさそう。来週だったらキッカー繋がりで「Icing the kicker (FG前に相手チームが邪魔のためにとるタイムアウト)は効果があるのか?」みたいな論文があったのでそれにするかも。良かったら、Saintsを応援しながらお待ちください。 今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
これまでの記事のまとめはこちら
noteのマガジンという存在を知ったので使ってみました。
参考資料
今週すごいと思った59ヤード
伝説の45ヤード
真ん中から0.15ヤード差
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