NFLドラフトの「リーチ」と「スティール」の現実–ビッグボードと実際の指名はどちらが正確なのか?
Ames · 2025年4月29日
NFLドラフト、今年も盛り上がりましたね。ということで今回はドラフト関連のリサーチ紹介です。
1. ビッグボード多すぎ問題
1.1. みんな大好きビッグボード
ドラフトが近づくと、カレッジをよく見る人も、普段はNFLしか見ない人も、どのプロスペクトが有望か、どのチームに指名されそうか気になりますよね。当日自分が選手選べるわけでもないのに毎日のようにやる気持ちは僕はあまり分からないのですが、Mock draftに精を出す人もよく見ます。まぁこのホームページにもMock Draft Simulatorが入っているんですが。
「今年の上位はどんな選手なんだろう」
「推しチームの順番で残っている選手は誰だろう」
「この2人の名前をよく聞くけどどちらが上なんだろう」
といった情報を得るために役立つのが、各評論家やサイトがプロスペクトを順位づけした「ビッグボード」 というやつです。日本のX界隈だとtamagoさん一強ですね。あれは順位だけでなくコメントが付いてるのでめちゃくちゃ凄い。毎年愛読してます。
一方で、ビッグボード自体大量にありますし(200以上あるらしい)、どうしてもそれぞれの評論家や媒体で選手の好みや手に入る情報が偏るのも事実。選手によっては各ビッグボードで全然違う順位が付いている ことも多々あります。特にQBは顕著で、去年のJJ McCarthy (MIN)とかもバラバラでしたし、今年話題のShedeur Sanders(CLE)なんかもQB1に推しているメディアもあれば3巡下位ってところもありました(流石に5巡を当てた所はないと思いますが)。
「どれが一番正確で、選手をちゃんと評価できているの?」というのは気になる人もいるとは思います。
1.2. コンセンサスビッグボードとは?
そこで、個人の好みで偏らないように 「たくさんビッグボードを集めて平均を取って、偏りなくコンセンサスの取れた『真のプロスペクトランキング』を作ろう!」 というコンセプトで作られた、複数のビッグボードの情報を混ぜ合わせた「コンセンサスビッグボード」がここ10年くらい急増しています。いくつか代表例を挙げると以下のようなものがあります。
- Wide Left:元Athleticで独立したArif Hasan氏がWide Leftというサイトに掲載していて、ほぼコンセンサスビッグボードが存在しなかった2014年から毎年公開されているパイオニア的ボード。データも集計手法も公開されていて、精度を高めるための工夫・改善が毎年されているのが印象的。2025は112のアナリストを過去の信頼度で重み付けして集計。
- NFL Mock Draft Database:ビッグボード199枚とモックドラフト結果3000個を集計して作られているとにかく大規模系。シミュレータがついているのもあって、これを愛用している人もXで時々見ます。
- Lichtensteinボード:データサイエンティストのJack Lichtenstein氏が公開。上2つとは違って、大手メディア16社のボードのみで作成。見やすい。
皮肉なのは…このように流行った結果として、現在ではコンセンサスビッグボードだけでも10種類くらいあってそれぞれ癖があります。コンセンサスビッグボードのコンセンサスが取れてない。
「どのコンセンサスボードがいいの?」まで来ると正直ほぼ好みですが、僕が個人的に好きでおすすめなのは1.のWide Left です。理由はパフォーマンスの振り返りをしているから。 Arif Hasan氏はリサーチ記事もよく書いていて
- 「ビッグボードとNFLの指名順位が大きくずれた選手のNFLでのパフォーマンスはどちらに近いのか」の検証(今日紹介)
- 「予測精度が高い/低いビッグボード」の検証(ビッグボードにグレードをつける)
- 「Forecaster(メディア関係者)」と「Evaluator(ドラフトアナリスト)」がどう評価付けるかの違い
など、複数の検証を行って毎年モデルに反映させています。(僕が研究者だからこういうのに惹かれるのもあると思いますが)コンセンサスビッグボード界(?)のパイオニアでありトップランナーと言えると思います。大手じゃないのでややマイナーなのが惜しい。
2. 今日紹介のリサーチ: ビッグボードの正確さを検証してみた
ビッグボードで17位予想だったのに59位でBALが指名したので「スティール」扱いになった例
前置きが長くなりましたが、僕は毎年ドラフト直後のこの時期、ドラフトのグレードを各メディアが適当に付けるのに辟易 しています(注:いつもSaintsが低いグレード付けられるから文句を言ってるわけではありません)。
「ニーズを埋められてない」とかデータを出してくるならともかく、大体は要約すると「うちの作ったビッグボードで高い選手をちゃんと指名したから高成績、低い選手を勝手に指名したから低成績」という議論、ちょっと横暴ではないでしょうか(注:いつも49ersが低いグレード付けられるから文句を言ってるわけではありません)。
もちろんNFL側がミスすることもありますが、実際の指名と自分たちの予想が食い違った時に メディア側がするべきはチームの批判ではなく、「この選手がこんなに高く指名されるなんて私たちの評価が不正確だった」という反省であるべき だと思います。
(↑この点tamagoさんはいつも「ビッグボードで載せた選手が実際の指名を90%カバーしていました」みたいな形で振り返られるので、リスペクトを感じます)
そこで、このようなメディアへの文句を込めつつ、今回は「億単位の金をスカウトに注ぎ込み、選手と実際に面談し、スキームも理解しているNFL側の方が遥かに選手をよく評価できているはず」という僕の思い込みに基づいた、
【説1】 ドラフト直後に「リーチ」扱いの選手、結局普通に活躍する説
【説2】 ドラフト直後に「スティール」扱いの選手、結局大して活躍しない説
という説の真偽を調べてみました。ソースは論文ではなく以下の3つの記事で、いずれも使っているのはHasan氏のコンセンサスビッグボードです。
3. 結果
3.1. コンセンサスビッグボードのTop 100は、実際の指名と同レベルで正確
まずRiske記事からですが、選手の価値予想としてのコンセンサスビッグボードの全体的な正確さは、NFLがわずかに勝るものの(3巡までは)実際の指名と同レベル という結果に(下図)。言い換えると、ビッグボードのtop100に載っている選手の活躍度の合計は、実際に指名されるtop100の選手の活躍度とほぼ同じです。
キャリア通算のPFF WAR(勝利貢献度)を使って、ドラフトとビッグボードそれぞれで「n位までの指名全員の勝利貢献度の合計」をプロット。大体重なっている。有料記事だが図が出るところまでは無料で読める(PFF記事より)
この表を細かく見ると、1巡ではNFLがかなり勝っているように見えますが、これはビッグボードではQBを過小評価しやすいのが理由だそうです(QB以外に限定すると同じだそう)。
また、4巡以降はNFLが有利に開いてきますが、これは「下位を発掘するのがNFLが上手い」ということとは限らなくて、この位置になると「ビッグボードに載せた選手が指名されない = UDFAで拾われてロースター残らない限りNFLで活躍ゼロ」というケースが増えてくるのにおそらく起因しています。実際に指名された選手にしかチャンスは与えられないので、NFL指名の方が活躍するのは当然です。
ちなみにHasan記事では 「他の個人アナリストのビッグボードと比較してのコンセンサスビッグボードの正確さ」にも言及していて、コンセンサスは毎回上位 だそうです。(2016-2022のトップ100に関して、コンセンサスより正確なのは2人だけ。その2人誰なのか教えてほしい)。コンセンサスボードって結構凄いんだなという結果です。
3.2. ビッグボードの「リーチ指名」予想はかなり正確(1巡で約80%)
次に、Hasan記事では指名された選手のその後の活躍度をランク付けして 「その選手の真の価値」 的なものを決めています(PFF WARをベースに、ポジションとスナップ数を補正して順位をつけているらしい)。
これをベースに、「NFLとコンセンサスボード、どっちが正しかったか?」を検証しています。例えば、Patrick Mahomesに関しては以下のように、NFLの方が実際の順位に近く「Patrick Mahomesの予想はNFLの勝ち」とできます。
Patrick Mahomes(2017ドラフト)
- コンセンサスボード:30位
- NFLの指名:10位
- その後の活躍のドラフト内順位(真の価値):1位
これを、「リーチ指名 = 実際の指名順位が、ビッグボードの順位よりもかなり高かった」選手について集計しました。
するとこのように、1巡でのリーチ指名は8割近い確率で指名順位には見合わない という結果に(指名順位に見合わないだけで、バストとは限りませんが)。ただ下の1巡リーチリスト見ると納得の結果…。
一方で、2巡以降については、ボードの勝率が50%超えているものの、NFLが正確だったケースも有意に増えています。超有名カレッジ選手以外だと、一般に知られていない性格面やスキームフィット、面談での結果など、(一部の)チームのみ持っている情報が効いてくるということかもしれません。
注)ここでは、ドラフトピックバリューで85%未満の位置の選手を指名した場合を「リーチ」と定義しています(一見ややこしいですが、この定義は納得。単に順位の差を取るだけだと、全体1位でランキング31位を取るのと、全体100位でランキング130位の選手を取る場合が同じ扱いになってしまう。前者の方が遥かにリーチ指名ですよね。この定義だと、上位ではドラフト半巡分ずれるとリーチ、中位だとドラフト1巡分ずれるとリーチという感じになります)
3.3. ビッグボードの「スティール指名」は過大評価されすぎ
一方で、「スティール指名 = 実際の指名順位が、ビッグボードの順位よりもかなり低かった」選手については、次の通りです。
注)同様に、ドラフトピックバリューで115%以上の位置の選手を指名した場合を「スティール」と定義しています
このように、大抵実際の指名順位(NFL側)の方が正しい という結果に。3巡まで広げても20%未満。「スティール神話」は過大評価 されていると言うことです。次のポストのように、確かにスティールのはずのQBはLamarしか当たってないし、他のポジションでも、ドラフト直後にスティールと言われてて本当に凄かったケース意外と少ないですよね。Kyle Hamiltonくらいでしょうか。BALって邪悪…
ただ一方で、筆者は「スティールと認定するのが無意味なわけではない」と言っています。というのも、どちらかと言うと「スティール指名選手」の活躍度はボードよりもNFLの指名順位(低い方)に近くはなるものの、その低い順位で通常指名した選手よりは活躍することが多い から、ということでした。若干言い訳っぽいですが、適当に指名するよりはボードに従ってスティールを狙った方が得だよと言っています。
3.2.と3.3.をまとめると、
NFLチームの「ビッグボードでは低いけど、うちは高く指名するぞ!」も、
メディアの「NFLの指名低すぎる、ボードではもっと高いぞ!」も
間違ってる可能性が高い ということですね。NFLチームが指名しないのにも、ボードで上位に来ないのにも根拠がありそうということでした。また当たり前ですが実際のドラフトでは上位から指名していくので、リーチは1チームがその選手を過大評価していたら起こりますが、スティールは31チームがその選手を過小評価していないと起こりません。前者はよくある、後者はめったにないということで納得できます。
この結論に関しては、詳細は触れませんが契約を使ったFitzgerald記事でも似た結果が出ていたので、ある程度信頼性はあるかなと思います。
4. まとめ: ビッグボードはこう使おう
ということで、僕の説は「スティールに関しては正解、リーチについては間違い」ということになりますが、以上の結果を見ると「ビッグボードはこう使うと効果的!」というのが見えてきます。結論をまとめます。
- コンセンサスビッグボードは、Top 100まではかなり正確 なので参考にしよう
- リーチ指名は大体外れる(特に1巡) ので、推しチームがやってたらバストも覚悟しよう
- スティール指名は言うほど活躍しない(せいぜい指名順位+10位分くらい) ので、ぬか喜びしないようにしよう
- 中位以降はリーチもスティールも不明なので、テープ見るか推しチームを信じよう
- この結論を元に「ということは、Shedeur Sandersの未来は…」とか考えるのはやめよう
以上です。今回もお読みいただきありがとうございました!
シェア
