- 出来事: 2016年、San Francisco 49ersのQB Colin Kaepernickが、国歌斉唱時に起立しない行動を通じて、人種的不平等や警察暴力をめぐる問題を提起した抗議
- 日付の整理: 最初にベンチへ座ったのは8月14日とされる。8月26日のGreen Bay Packers戦で姿が広く報じられ、9月1日のSan Diego Chargers戦では片膝をつく形式に変え、Eric Reidが加わった
- 本人の説明: Kaepernickは、黒人・有色人種への抑圧や不公正を見過ごせないという趣旨を述べ、軍人への敬意を否定する意図ではないと説明した
- 当時の対応: 49ersは国歌を重要な式典と位置づけつつ、参加するかを選ぶ個人の自由を認めた。NFLは当時、起立を「推奨」するが「義務ではない」としていた
- その後: 行動はリーグ全体へ広がり、2018年には国歌方針が発表された。KaepernickとReidは契約をめぐる申し立てを行い、2019年に詳細非公表の和解に至った。2020年には現役選手の共同声明を受け、Roger Goodellがリーグは以前の選手の声を聞かなかったと認めた
2016年8月に抗議が広く報じられた際の映像:
1. 国歌斉唱時に座った49ersのQB
Colin Kaepernickは、2011年に49ersへ加入し、2012年シーズンにはチームをSuper Bowl XLVIIへ導いたクォーターバックだった。2016年プレシーズン、彼は国歌斉唱の間、ベンチに座って起立しない行動を取った。
最初に座ったのは8月14日のHouston Texans戦、続いて8月20日のDenver Broncos戦とされる。ただし、大きく注目された契機は8月26日のGreen Bay Packers戦だった。記者がその姿を撮影し、試合後に理由を問われたKaepernickは、人種的不平等と警察による暴力を含む社会問題への抗議であると説明した。
"To me, this is bigger than football."
(私にとって、これはフットボールより大きな問題だ)
この行動は、国歌や国旗に対する敬意を欠くものだと受け止める人々から強い反発を招いた。一方でKaepernick自身は、行動の対象は軍人ではなく、社会にある不公正だと一貫して説明した。抗議の目的と、行動をどう受け止めるかは、当初から大きく分かれた。
Super Bowl XLVIIでパスを試みるColin Kaepernick。抗議時の写真ではない(撮影: Au Kirk, 2013年, CC BY 2.0, Wikimedia Commons より)
2. 座ることから、膝をつくことへ
8月26日の報道後、Kaepernickは元米陸軍グリーンベレーで元NFL選手のNate Boyerと対話した。9月1日のChargers戦では、ベンチに座る代わりに片膝をつき、同僚セーフティのEric Reidが隣に加わった。
49ersの公式記事によれば、KaepernickとReidは、行動のメッセージが形式だけで失われないよう話し合ったと説明している。Kaepernickはこの試合で、軍人への敬意を否定する意図ではないこと、社会問題をめぐる対話を続けることが目的だと語った。Boyerはサイドラインで2人に付き添い、Kaepernickは軍関係者をたたえる場面にも拍手を送った。
ここで重要なのは、2016年の抗議を一律に「片膝をつく行為」とだけ表現しないことだ。最初は着座で始まり、Boyerとの対話を経て形式が変わった。KaepernickとReidが説明した意図と、外部からの受け止め方は同じではなかった。
3. 49ersとNFLの初期対応
8月26日の試合後、49ersは国歌を「試合前の特別な式典」と位置づけながらも、信教・表現の自由という原則を尊重し、個人が参加するかどうかを選べるとする声明を出した。Chip Kellyヘッドコーチも、起立しない判断は市民としてのKaepernickの権利だと述べた。
NFLも当時、「選手には国歌斉唱時の起立を推奨するが、義務ではない」と説明した。したがって、抗議が始まった時点でKaepernickはリーグの国歌規定違反として処分されたわけではない。
一方で、チーム内外には強い反対もあった。国歌斉唱を軍人・退役軍人への敬意と結び付ける人々にとって、起立しない行為はその敬意を傷つけるものに映った。Kaepernickの説明、49ersとNFLの制度上の立場、そして社会の受け止めは、同じ問題の異なる層だった。
4. リーグ全体への波及
2016年シーズン中、他チームでも国歌斉唱時に座る、膝をつく、拳を掲げるなどの行動が見られるようになった。同じ形式でも、各選手が掲げた理由や表現は完全に同一ではない。Kaepernickの行動は、NFLの試合前セレモニーを人種的不平等、警察と地域社会の関係、表現の自由をめぐる全国的な議論の場に変えた。
2017年9月には、Donald Trump大統領が国歌斉唱時に起立しない選手を批判し、論争はさらに拡大した。NFLとNFLPAは選手の表現の権利に言及する声明を出し、チーム、選手、ファン、スポンサーの対応も一様ではなかった。
2017年10月15日、Washington戦の国歌斉唱時に膝をつく49ersの選手たち。Kaepernick本人は写っていない(撮影: Keith Allison, 2017年, CC BY-SA 2.0, Wikimedia Commons より)
2017年に抗議の広がりを伝えた映像:
NFLの国歌斉唱抗議を伝える映像 — YouTube で見る ↗5. 2018年の国歌方針
2018年5月23日、NFLオーナーは新たな国歌方針を発表した。フィールド上にいる選手・リーグ関係者には起立を求め、起立したくない者にはロッカールームにとどまる選択肢を与える内容だった。フィールド上での抗議があった場合、リーグはチームへ罰金を科すことができるとされた。
この決定にはNFLPAが十分に協議されていないとして反発した。7月、NFLとNFLPAは協議を続ける間、国歌に関する新たな規則を発行しないと共同で表明している。発表された方針を、そのまま一貫して施行された恒久的な規則とみなすのは正確ではない。
2018年9月、NFLはKaepernickらが提起した社会正義の問題は「注意と行動に値する」とする声明を出し、Players Coalitionとの地域プログラムへの資金拠出にも言及した。これは、抗議に対する初期の制度対応とは別に、リーグが社会的不平等を扱う姿勢を公に示した動きだった。
6. フリーエージェント、申し立て、和解
Kaepernickは2017年1月1日に最後のNFL出場をし、同年3月に49ersとの契約をオプトアウトした。その後、NFLチームとは契約しなかった。
2017年10月、KaepernickはNFLとチームオーナーが抗議への報復として契約機会を奪ったとするグリーバンス(CBA上の申し立て)を提出した。2018年にはReidも同様の申し立てを行った。これはKaepernick側の主張であり、抗議と無契約の因果関係が司法判断によって確定したことを意味しない。NFLは仲裁手続の機密性を理由に、個別の主張へのコメントを控えていた。
2019年2月、NFLと両選手の代理人は、係属中の申し立てを解決することで合意したと共同声明で発表した。和解には秘密保持条項があり、金額や具体的な条件は公表されていない。和解は、どちらかの主張が最終的に事実認定されたことを示す文書ではない。
7. NFLの外へ広がった影響
Kaepernickの抗議は、NFLにとどまらず、スポーツ選手の社会的発言、企業スポンサー、国歌斉唱という儀礼の意味をめぐる議論へ広がった。支持する人々は、人種的不平等や警察暴力を可視化したことを評価した。反対する人々は、国歌・国旗・軍への敬意を損なう行為だと捉えた。
いずれの評価に立つとしても、確認できる経過は明確だ。Kaepernickは2016年に自らの理由を説明して抗議を始め、同僚が加わり、リーグ全体の対応と方針の議論を生んだ。彼が提起した問題と、行動への社会的評価は現在も一つに収束していない。そのためこの出来事は、NFLの一選手の行動であると同時に、スポーツが社会問題とどう交わるかを示す事例として位置づけられている。
7.1. 2020年、選手共同声明がNFLへ求めたこと
2020年5月、Minnesota州MinneapolisでGeorge Floydが警察官に殺害され、Black Lives Matterを掲げる抗議が全米へ広がった。6月4日、Michael Thomas、Patrick Mahomes、Tyrann Mathieu、DeAndre Hopkins、Odell Beckham Jr.ら複数のNFL選手は、各自の場所から撮影した映像をつないだ共同声明を公開した。
選手たちは、George Floyd、Breonna Taylor、Ahmaud Arberyらの名を読み上げ、「もし自分がGeorge Floydだったら」と問いかけた。そしてNFLに対し、人種差別と黒人への制度的抑圧を非難すること、平和的に抗議した選手を沈黙させたことが誤りだったと認めること、Black Lives Matterを支持すると表明することを求めた。
選手たちによる共同声明:
この動画はKaepernickだけを扱ったものではない。しかし「平和的抗議をした選手を沈黙させた」という要求は、2016年以降のKaepernickやEric Reidらへのリーグ対応を明確に想起させるものだった。The Athleticは、Michael ThomasとNFLのクリエイティブ担当者が短期間で映像制作を進め、選手側の声明がリーグの対応を迫った経緯を報じている。
翌6月5日、CommissionerのRoger GoodellはNFL公式動画で、人種差別と黒人への制度的抑圧を非難し、リーグが「以前のNFL選手の声を聞かなかったのは誤りだった」と認めた。さらに、平和的な抗議と発言を支持し、Black Lives Matterを信じると表明した。
ただし、Goodellはこの声明でKaepernickの名を挙げたり、本人へ直接謝罪したりしたわけではない。2016年の対応についてリーグが全面的な法的責任を認めた声明でもない。それでも、選手の抗議を抑える方針が議論された2018年から、平和的抗議を公に支持する2020年の声明へ移ったことは、リーグの公式姿勢に生じた大きな変化だった。
7.2. 2020年シーズン開幕週の抗議と連帯
9月の2020年シーズン開幕週には、選手とチームがそれぞれ異なる方法で人種的不平等への意思を示した。Seahawks対Falconsではキックオフ直後に両軍が約10秒間膝をつき、Eaglesは国歌などの演奏後にロッカールームへ戻った。Jaguars、Packers、Bills、Dolphins、Jetsなどは国歌斉唱時にロッカールームへとどまり、ColtsのFrank Reichヘッドコーチはフィールドで膝をついた。
すべての行動がKaepernickと同じ形式や意図だったわけではない。それでも、2016年には一人のQBの行動として激しい反発を受けた問題提起が、2020年にはスター選手の共同声明、Commissionerの応答、複数チームの組織的な行動としてNFL全体に現れた。Kaepernickはこの時点でもNFLへ復帰していなかったが、彼が提起した論点はリーグの中心から消えていなかった。