5年目オプションの光と影(前編)
Ames · 2023年11月27日
今年長期契約を更新したJoe BurrowとJustin Herbert。腰を据えてスーパーボウルを狙う…と言いたい今年でしたが、Burrowは怪我でシーズンエンド、Herbertもチームが低迷して思ったようなシーズンが送れていません。
今回は2チームのファンへの励ましを兼ねて、この2人の契約延長で上手く使った「5年目オプション」をキーワードに、この制度のチームにとってのメリットを中心に書きます。
1. ルーキー契約を延長するのはいつ?
1.1. ベテラン契約はいつでも見直せる
NFLでは、ルーキー契約を終えた後に延長した契約(「ベテラン契約」と言います)は、いつでも見直しができます。最近だと Mahomes(KC) や Aaron Donald(LAR) などがSB優勝後に契約がかなり残っていたにも関わらず増額しました(逆に減らした例はMichael Thomas(NO)やAaron Jones(GB)など)。
基本的に延長した契約はいつでも見直しができるため、極端に悪ければリリース/トレードまたはペイカット、極端に良ければ選手の要求次第で増額され、基本的に適正値を大きく外れたサラリーは是正される ようになっています。
1.2. ルーキーの給料は3年目終了時まで上げなくていい
それに対して、ドラフトで指名された新人が結ぶ 「ルーキー契約」は給料(指名順位によって決定)と契約期間(4年、UDFAの場合は3年)が最初から決まっていて、4年間のうち3年間を終えるまで絶対に変更できません (おそらく、良い契約で釣って新人を裏で引き抜こうとするチームが現れるのを防ぐためのルール)。そしてそのサラリーは延長したベテラン選手と比べて安いです。
例えば新人から2年連続でオールプロの Micah Parsons(DAL) はルーキー契約中でサラリーは年平均$4.2Mと、DE最高額のNick Bosa(SF, $34M/y)と桁が1つ違って明らかに低いです。しかし本人が練習をボイコットしたり延長を要求したりって聞きませんよね。これはこのルールのため変更が効かないのがわかっているからです。今オフから交渉が可能になります。
このケースで今一番激しいのは Brock Purdy(SF) ですね。押しも押されぬスターターとして今年はトップQBと比べても恥ずかしくない成績を残していますが、彼は既にルーキー契約として 4年$3.7M(!)を結んでしまっており、2024年シーズンが終わるまで何があっても変更できません。49ersファン的には嬉しいことに 残念ながら今年SBで優勝しようと、MVPを取ろうと、何があっても来年は$1M以下で働いてもらいます。僕も同じ州で働いてますが、彼の保証額($7.7万ドル)は博士研究員のサラリーより低い。ルームメイトがいるそうです。
1.3. ルーキーの契約は3年目終了時まで更新できない
一方で、NFLでは「契約を早く延長したい」という状況も存在します。
- NFLのサラリーキャップは基本的に単調増加(後述)なため、更新のタイミングが遅れるとその分高くなる
- 他の同ポジションの選手とも比較されるため、そちらが契約を更新してしまうと「その金額より高く」と交渉されてしまう
という理由で、基本的に契約延長のタイミングは遅いほど更改額も高くなるため、Mahomes, Burrow, Herbertなど、早い段階でフランチャイズQBになることが確信できる選手の場合、なるべく早く長期契約を結んで囲い込んでしまいたい ものです。
そうなると逆に「3年目終了時まで更新できない」というのがネックになります。早く延長したくても、ルールのために契約交渉を開始できる時点で残る契約期間は1年。QBがホールドアウトでもしてトレーニングキャンプを休んだりしようものならチーム的に大変。残り時間もあまりなく、FA流出を避けようと思うと最高額もやむを得ない…となるわけです。
2. 5年目オプション制度:1巡指名のみ、ルーキー契約に5年目が付けられる
2.1. 5年目オプション制度とは?
そこでキーになるのが、今回のテーマの5年目オプション制度です。簡単に言うと
- 通常4年間で終了するルーキー契約に、球団が希望すればオプションを行使して 5年目の契約を付けられる
- ドラフトで 1巡指名された選手のみ対象(2巡目以降は関係なし)
- 行使するか拒否するかは 3年目終了後(ドラフト直後の時期)にチームが判断 する(選手に拒否権はなし)
- 5年目の 給料額はルール(後述、付録1も参照)によって決まり、基本給扱いで全額保証
という制度です。
3年目終了時にチームが決断ということで、今年(2023年)の4月は 2020年ドラフト組 のオプション行使期限 でした。2023年のオプション行使状況は NFLのページ でまとめられています。代表的な例としては
- 行使した:1位 Joe Burrow (CIN), 5位 Tua Tagovailoa (MIA), 10位 Justin Herbert (LAC), 22位 Justin Jefferson (MIN)
- 行使しなかった:2位 Chase Young (WAS), 8位 Isaiah Simmons (ARI), 28位 Patrick Queen (BAL)
あたりが有名な例です。
ドラフト直後なので見逃しやすいですが、この頃にRapoport/Schefterあたりから次のようなニュースが出ますね。
2.2. 5年目のサラリーは?
オプションを行使した場合の5年目の給料額は、選手のポジション と、3年目までの試合出場率とプロボウル選出数によって分けられる4つのカテゴリ(下図参照、詳しくは付録1)によって自動的に決まります(交渉なし)。2021年のトップ10は以下のようになっています。
2021年ドラフトクラスの5年目オプション行使額上位10名(OverTheCap.comより)
Lawrenceが$23Mと安く見える一方で、Zach WilsonやTrey Lanceに$20Mは払えない…という相場感があります。ざっくりカテゴリ別で言えば
- プロボウル出場した選手:普通に延長した場合より安い
- Playtime (スターターレベル):ポジションと場合によるが先発QBなら安い
- Basic (それ未満):高い
という相場になることが多いです。サラリーの計算に使うプロボウル出場は最初の投票(first ballot)のみ数えるため、トップのカテゴリ(3年間でプロボウル2回)に入る選手はあまりいません(2020ドラフトだとJustin JeffersonとTristan Wirfsくらい)。
2020年ドラフトでも、BurrowとHerbertがカテゴリ2(プロボウル1回)で$29.5M、Tuaはカテゴリ3(プロボウルなし、スターター)で$23.2M と聞くと厳しさがわかりやすいでしょうか。
3. 「オプション行使→即延長」メソッド
3.1. 5年目オプションによって「残り2年」で延長交渉ができる
5年目オプションの利点は単に「安いルーキー契約を1年延長できる」ことだけではなく、もう1つの利点として「5年目の契約を確保した状態で、3年目終了時点から延長交渉ができる」ことがあります。
1巡だろうと2巡以降だろうと、ルーキーは3年目終了時点まで契約延長ができないのは変わりません。ところが通常なら残り1年となるところが、1巡指名選手でオプションを行使すれば残り2年の契約を残した状態で、腰を据えて延長交渉ができます。
3.2. 2023年オフの契約延長QBを比較してみよう
さらに、これは「2年後からの契約を結べる」という意味でもあり、サラリー的にも得になります。例として、今年契約を延長した4人のQBを比較してみましょう。
- Hurts(PHI): 5年$255M($51M/年)
- Jackson(BAL): 5年$260M($52M/年)
- Herbert(LAC): 5年$262.5M($52.5M/年)
- Burrow(CIN): 5年$275M($55M/年)
と、契約した順にQB最高額が少しずつ更新されていきました。相対評価だとわかりやすいですね。
ところが、これらの大型契約のニュースでは基本的に年平均の値のみに着目して比べているために似たような金額に見えますが、スタートするタイミングが違います。
- Jackson: 2017ドラフトで1巡指名、ルーキー契約は2022で終了、2023はフランチャイズタグの仮契約があったが延長に伴い破棄
- Burrow, Herbert: 2020ドラフトで1巡指名、今オフに行使した5年目オプションを含めてルーキー契約が2024年まで
- Hurts: 2020ドラフトで2巡指名、ルーキー契約が2023年まで
という経緯まで踏まえると、同じ5年契約といってもLamar Jacksonは2023年から、Hurtsは2024年から、Burrow/Herbertは2025年からの5年契約 です。図示すると次のようになります。
5年目オプションにより、同じ年にドラフトされた3人の中でHerbertとBurrowの方が1年大型契約の開始が遅い。
Burrowは5年$275M($55M/年)と聞くとなかなか高い感覚ですが、その前に1年$30Mの5年目オプションがあるので、来年からは実質6年$305M ($51M/年)です。「契約更新したのでもうBurrowもHerbertも高給QBの仲間入り、All Inなのに今年を無駄にした…」と嘆くファンもいると思いますが、それは間違い。2024年は上がるとはいえまだルーキー契約、その後もキャップヒットが上がっていくのは少しずつです。CINはBurrowの怪我をしっかり治して、LACはHCを解雇して守備を補強して、「来年再来年で勝負!」という気持ちで問題ない と思います。少なくともQBのサラリー的には、BALやPHIよりも(Mahomesが増額したKCよりも)来年以降に余裕がありますし、契約が残っているのは5年ではなく7年です。
3.3. これからのNFLは大インフレ時代
それでも、「タイミングが違えど将来の5年間で見れば似たような金額払うわけだから最終的には同じじゃないの?」と思うかもしれません。しかし、実は 現在のサラリーキャップの急増傾向を考えると今すぐ大型契約が始まるか、1年後に始まるか、2年後に始まるかは非常に大きな違い です。というのも、最近NFLは新たにTV放映権の大型契約を結び、2023-2033年では毎年あたり$10 billion (100億ドル)の放映料が入ることが決定 しました。
これは リーグの収入が大幅に増加することを意味するため、サラリーキャップも2023年以降急増する ことが想像に難くありません。OverTheCap によると、現在$225Mのサラリーキャップは 2024年$256M、2025年$282M、2026年$308M と10-15%ずつ増えていくと予想されています(今までは毎年約8%の増加だった)。
これに伴って間違いなく今後QBに限らずサラリーはキャップに合わせて急上昇しますし、単純計算では最高額で契約を結ぶQBのサラリーは2年後に$55M x 1.3 = $71.5M/年となっていてもおかしくありません。現実世界で例えるなら、今後10年インフレが続くのがほぼ確定し、2年後の物価は今の1.3倍という状態。
こうなると、2023年から大型契約を始めるLamarと、2年後の2025年にサラリーキャップが今の1.3倍になった状態で大型契約を始めるHerbertやBurrowでは実質的に大きな差がある ことがわかると思います。Mahomesが史上最高額で契約を更新してからたった3年なのに、最近見直す頃には「Mahomesのサラリー安すぎる」という風潮がありましたよね。あれと同じことが、さらに激しく起きると予想されています。「Herbert/Burrowのサラリーが$60Mに達してないの安すぎ!」みたいな日が来るのは早いかもしれません。
まとめると、通常のルーキー契約では1年先の分の契約しかできないものを、5年目オプションを行使すると「2年後から始まる大型契約を、今の相場で契約できる」というのが最大の利点 です。実質的にはLamarやHurtsの方が総額・保証額ともに高い契約であるにも関わらず、BurrowもHerbertも「Highest paid quarterback」という肩書きで契約できました。
3.4. 5年目オプション分は「保証額」にも使える
また、これは難しい話なので飛ばしてくれて良いのですが、NFLの契約報道では「Joe Burrow 5年総額$275M ($146.5Mフル保証)で契約」のように書かれる際、
- 総額$275M:今までの契約は無視して「新たに契約した」5年分のみ を数える
- フル保証$146.5M:今までの契約で既に保証されている分も含めた保証額 を数える
という不思議な風習があります(このせいで、ごく稀に保証額の方が総額より多い選手が現れます)。
つまり、Burrowの$146.5Mフル保証というのは、4年目のサラリー$11.5M(元々フル保証)、5年目オプションの$29.5M(元々フル保証)も含めた値 です。つまり、新たに追加した契約の$275M中、ベンガルズが保証したのは$105M (146.5 – 11.5 – 29.5)だけなんですね。一方でLamarは5年$260M ($135Mフル保証)ですが、残っていた契約がないので、新たに追加したうち約半分の$135Mを本当に新たにフル保証しています。
契約総額と同様、保証額も同ポジションの他選手と比較して見劣りしないように設定しなければいけませんが、5年目オプションで既に保証している分を含めることで、これを少なくすることが可能です。
4. QBの5年目オプションのシナリオ一覧
以上を踏まえて、「QBの5年目オプション」のシナリオをまとめておきます。
4.1. 文句無しの選手(特にQB)の場合:オプション行使→即延長
3年目までに結果が出ていて、今後長期で自チームに残って欲しい場合、上述のように行使してすぐ延長するのが一番得です。特にQBではスタンダードになりつつあり、以下の選手は皆行使→即延長しています。良いQBほど得な契約になるので、どんどん格差が広がるシステムです。
(例)Patrick Mahomes (KC), Josh Allen (BUF), Kyler Murray (ARI), Justin Herbert (LAC), Joe Burrow (CIN)
4.2. 実力はあるが、まだ発揮できていない選手の場合:オプション行使→契約延長は待つ
また、3年目に怪我をしてしまったなど、4年目時点で延長するべきか判断がつかない場合、オプションを行使することで契約切れの心配なく4年目を見極めの年とするために使うこともできます。脳震盪の不安があったTuaが典型的な例ですね。長期契約を結ぶということは、それが早期に失敗した際のリスクも大きいため、見極めるために待つというのも1つの選択肢です。
(例)Tua Tagovailoa (MIA), Lamar Jackson (BAL)
4.3. 実力に不安あり or バスト → オプションを行使しない
一方で、5年目オプションのサラリーは全額保証のため、軽々しく行使するというわけにはいきません。バスト確定なら当然ですし、4年目も先発に据える場合でも、別の選手に移ることが濃厚なら行使しないという選択肢も多いです。
(例)Daniel Jones (NYG), Zach Wilson (NYJ), Trey Lance (DAL)
5. 後編へ
今回は「延長確定、フランチャイズQB」みたいなケースを扱ったので5年目オプションは行使が前提でしたが、上述のシナリオは文句なしのあたりで行使する場合と文句なしのバストで行使しない場合以外は見極めが難しく、GMの腕の見せ所ですが失敗例も少なくありません。
後編では「5年目オプションしくじり」の例として
- Baker Mayfield(行使した→放出)
- Daniel Jones(行使しない→結局延長→…)
の2人のケース、そして行使する/しないのどちらでもない選択をしたJordan Loveについて書きます。
付録
付録1. 5年目オプションのサラリーの決め方
オプションを行使した場合の5年目の給料額は、選手のポジション と、3年目までの出場数とプロボウル選出数によって分けられる4つのカテゴリ によって自動的に決まります(交渉なし)。
- プロボウル2回以上:ポジショントップ5の平均 (フランチャイズタグと同じ額)
- プロボウル1回:ポジショントップ10の平均 (トランジションタグと同じ金額)
- Playtime(75%のスナップ出場を2回 or 50%出場を3回):ポジション3位〜20位の平均
- Basic(上記該当なし):ポジション3位〜25位の平均
(正確には過去5年間のサラリーを使って平均したり、サラリーキャップの変化に応じて補正したりとかがあるのですが細かすぎるので無視します)
ただ、この場合使うのは契約のAPY(平均額)ではなくて、キャップヒット(その年のサラリーキャップに計上する金額) です。QBのトップ5平均というと$50Mとかをイメージするかもしれませんが、実際には多くの契約は再構築したりvoid yearを付けたりでキャップヒットを下げているので、今年の計算に使うQBの最高サラリーは$38.6M(Ryan Tannehill)、トップ5の平均は$32.4Mでした。
この結果、Kenny GolladayのサラリーをベースにJustin Jeffersonの5年目の給料を計算する、みたいな不思議なことが起きます。
付録2. フランチャイズタグとの違い
5年目オプション制度は「球団側が良い選手を契約終了後に1年キープできる」という点でフランチャイズタグ制度と似ていますが、行使のタイミングが大きな違いの1つです。該当年度が始まる直前のオフシーズンに行使するタグと違い、5年目オプションは1年半ほど前に決めないといけません。
詳しくは後編の記事に書きますが、この早い行使タイミングのために、
Baker Mayfield: 2020プレーオフ出場&1勝
→ オフに5年目オプション行使
→ 2021年シーズンが低調
→ オプションの2022年シーズンを前にトレード
のようなことも起きるわけです。その他にも、
- 契約延長したらフランチャイズタグの年度分は消えるが、5年目オプションは残る
- フランチャイズタグは各チーム1人までだが、5年目オプションは1巡選手全員に使える
- 「タグにサインする」というプロセスがなく、5年目オプションは拒否権なし
といった違いがあります。
シェア
