FAは「弱者のゲーム」?–選手のガレージセールを制する戦略とは–
Ames · 2026年3月15日
FA開幕初日の混乱(CrosbyトレードとBALの撤回劇)を伝えるツイート:
FA解禁!今年はなかなか荒れていますね。LVがMaxx Crosbyを1巡2つでBALにトレード→FA初日に$281.5Mの大盤振る舞い→翌日BALがトレード撤回してHendricksonへ、というのがなかなかでした。「フィジカルに引っかかったトレード」自体は過去にもありますが1巡2つのトレードが流れるのはさすがに珍しい。関係ないから盛り上がれますが。
さて、FAが盛り上がった(NOファンとしても初日から楽しめたのは数年ぶり、キャップがあるのは偉大…!)のに合わせて、久々に長めのサラリー記事 を書いてみます。今回は 「NFLのFA市場」の構造と、FA市場で本当に狙うべき選手やポジションについて 考えてみたいと思います。
1. 3種類の補強方法(ドラフト、トレード、FA)
まず、NFLで選手を獲得する方法は大きく分けて3つ(ドラフト・トレード・FA)で、これを上手に使い分けるのがGMの鍵。簡単に表で比較してみると以下のようなイメージです。
Brock Osweilerがピンとこない人もいるかもしれませんが、FAでHOUと大型契約結んだ1年後、2巡を払ってCLEにトレードで引き取ってもらったという伝説のFA失敗です。
①ドラフトは当たれば最もハイリターン(若い、サラリー安い、4年間) な一方、NFL実績はなく、スキームフィットも不明な中で選ぶ必要がある点で 確実性は低い。Micah Parsons, Maxx Crosbyなどの NFL実績があるスーパースターすら獲得可能性がある②トレードも有効 ですが、選手の価値に見合うドラフト指名権や選手を失う 必要があります。
こう考えると、今回のテーマの ③FA というのは、「トレードのように指名権を使う必要がないのに、NFL実績のある選手を取れる」ということで一見非常に良い補強手段に思えますよね。
しかし、残念ながら実情はそうではない。例えばSean Paytonは以下のように語り、FAを「ガレージセール」に喩えて、下調べをして時間をかけないと「壊れた家具」を買いかねない––市場に出てくる選手には出てくる「理由」がある という話をしています。これについて以下で深掘りしてみます。
Sean PaytonのFA「ガレージセール」論:
2. FAの構造的問題①プレミアムポジションの選手が出てこない
まず重要なこととして、FAに出てくるのは「元チームに契約延長されなかった選手」だけ です。Top 101みたいなリストを見てもらえれば分かりやすいですが、その結果、ポジションによって選手のレベルが全然違う。NFLでは、チームの勝敗に大きく影響する 「プレミアムポジション」(QB、WR、EDGE、CB、OTなど)における優秀な選手は、FA市場に出てくる前にほぼ確実に元のチームによって引き留められます。
典型的な例がWRです。現在年平均(APY)で$30Mを超えるトップレシーバーはChase (CIN), Jefferson (MIN), Lamb (DAL), Metcalf (PIT), Wilson (NYJ), AJ Brown (PHI), Amon-Ra (DET), Aiyuk (SF) の8名ですが、この中で ルーキー契約後にFAになった選手は一人もいません。$25Mに広げてもゼロ(厳密には、合法タンパリング開始5分後に元チームと契約した今回のPierce (IND) はFAといえばFAですが)。
2026年FA WRのランキング:
結果として、FA市場に出てくるWRの目玉は「若手の2.5番手+30歳越えのベテランビッグネーム」です。上の表で一番上のPierceだけ元チームが延長して実質FA市場に出なかったのが如実ですね。ベテラン組のおかげで割といい選手がFAに出てるように見えますが、30歳超えて全く衰えなかったWRはJerry Riceだけと言っても過言ではないのでこれもリスキーな選択肢。
過去数年を振り返って、30歳未満の選手に絞って契約額順に3人出してみると、不作というか毎年出てくるのはこのくらいの選手というのがわかりやすい。
- 2025: Darius Slayton, Dyami Brown, Josh Palmer
- 2024: Darnell Mooney, Gabe Davis, Curtis Samuel
- 2023: Allen Lazard, Jakobi Meyers, JuJu Smith-Schuster
これに対してトレードならAJ Brown, DJ Moore, Pickens, Hill, Adamsなど、全盛期の一流選手でもチーム事情で放出されることがあります(大体元チームは悔しがりますが)。プレミアムポジション選手を得る手段としては圧倒的にトレード>>FA。これはWRに限らず、QBやEDGEといったプレミアムポジション全般に当てはまる傾向です。
3. FAの構造的問題②出てくる予定の良い選手が直前に消える
さらにFAの問題点として、「出てくる選手が直前まで読めない」という点も大きいです。数ヶ月前に選手一覧が出揃うドラフトと違って、解禁ギリギリまで元チームと交渉しているFAでは、欲しかった選手の獲得可能性が突如ゼロになり得ます。
3.1. フランチャイズタグ
今年のフランチャイズタグ行使状況:
第一の要因はフランチャイズタグ。制度の詳細は 別の記事 に譲りますが、各チーム一人だけFA予定選手を1年契約で引き止められるこの制度、行使期限はFAの2週間前 です。
「FA市場に出したくない選手」に対してはチームにはこの切り札があり、今年もFAの目玉とされていたGeorge Pickens (DAL)、Breece Hall (NYJ)、Kyle Pitts (TE) にタグを使用されFA市場から消えました。
3.2. 駆け込み契約延長
FA直前のAlec Pierce(IND)の延長合意を伝えるツイート:
もう1つFAの当てが外れる要因が、FA解禁直前での契約延長。駆け込みで行われることが多く、2026年オフだけでも、Khalil Mack (LAC, 3/8延長、実は2年連続このパターン)、Javonte Williams (DAL, 2/25に3年$24M延長) などが直前に引き留められました。また一応FAに出た形ではあっても、Alec Pierce (IND) も解禁5分後の4年$114Mの延長合意は実質的には引き留められた形です(Daniel Jonesを謎の優先したせいでタグが使えなかっただけ)。
4. FAの構造的問題③弱小チームとの争奪戦に勝てない
4.1. 再建期チームはキャップが爆余りする
①②はいい選手が出てこないという話でしたが、今回のTyler Linderbaumのように、元チームのサラリーなどの都合で 良い選手が珍しく出てきた場合も、獲得は容易ではありません。というのも、サラリーキャップのインフレ傾向も相まって、毎年どこかは再建期でキャップが余って仕方ないチームが出てくるからです。契約延長したい選手もいないし、良いベテランは将来の指名権のために売り払う。結果ロースターはルーキー契約の若手選手ばかりとなるとお金は余ります。
LV FA直前のキャップスペース($103.6M)を示すツイート:
典型的な例が今年のLVで、FA直前の キャップスペースは$103.6M。ドラフト(順位)やトレード(対価)と違ってほぼ平等にサラリーでの獲得勝負になるFAで、こんな資金力のチームに勝てるわけありません。
複数チームで奪い合う結果として サラリーも高騰するため、FAで結ばれる契約の多くが割高に感じるのはそのため です。1日目のLVの乱獲具合は凄まじく、Linderbaumに至っては同ポジション2位のCreed Humphrey (KC) の年$18Mの1.5倍の市場最高額で更新しました。
LinderbaumのLV移籍と最高額契約を伝えるツイート:
4.2. 再建期チームは補填ピックを失うリスクがない
JAXの補填ピック戦略を語るツイート:
さらにもう1つ、「補填ピック(compensatory)」という制度の存在がFAにおける格差を生みます。どういう制度かというと、詳細は省きますが
- 年俸・出場時間などを基に、ある程度高額でFA選手が流出すると3〜7巡の補填指名権がチームに付与される(各チーム最大4つ)
- ただし、同レベルのFAを獲得すると補填ピックは相殺されて消える(重要)
という形。年平均$20MのFAを流出させれば3巡の補填ピックが得られますが、同程度のFAを獲得するとそのピックが消える。例として、今年BALはLinderβ€aum ($27M/年) を失って得る3巡は、Hendrickson ($28M/年) の獲得で相殺されて消えます。この結果、各チームは流出する選手由来の補填ピック(特に3巡や4巡の場合)も気にしながら、それが消えることも考慮してFA獲得をする必要 があります(上ポストのように、それを明言しているJAXなどのチームも)。
しかし…先ほどのような 再建チームは、「補填ピックを失う」ことを気にする必要がありません。なぜなら、再建チームには高額でFAになる選手がいません(お金が余ってるので、そんないい選手は延長かトレードする)。FAのspending上位3チームを見ると、補填ピック対象はLVはKenny Picketのみ(7巡×1)、TENはArden KeyとSebastian Joseph-Day(6巡+7巡)のみ、CARはCade MaysとRico Dowdle(6巡×2)のみ。高額FAを獲得しているのは、それによって3巡や4巡が消えるリスクを背負っていないということの裏返し でもあるわけです。
【余談:逆に補填ピックを活用しまくるチームは?】
逆に言えば、「良い選手も全員は引き留めず、FAで大きく補強しない」 という戦略を取れば、安定してドラフト指名権を増やせるため強豪になりやすい。(ただし、これは強豪→いい選手が多い→全員は引き止められない、というロジックでもあるので、戦略なのか結果なのかはチームによりますが)
代表的なのは LAR や BAL ですね。ここら辺のチームはほぼ毎年3巡や4巡を獲得していて、それをトレードアップに使ったり良い選手取れていたりと上手くやっている印象です。
補填ピックを積極活用しているチームの一覧ツイート:
Over The Cap – 補填ピック一覧 のページを見ると、見事に補填ピックを消さないようにFAをやっているチームがよく分かります。今年だとJAX, DEN, PHI, GB, SFあたり。どこも今強いチームですね。
5. FAで狙うべきなのは?
以上を踏まえると 「FAに積極的」というのが言うほど積極的な選択ではない のは分かると思います。
- 自前の良い選手が少ない
- ドラフトも数が限られている
- 補填ピックを失うリスクもない
- キャップは消費する必要ある(連続する4年間でサラリーキャップの消費量は89%を越えないといけない(キャッシュベース)、というサラリーフロア規定がNFLにはある)
などの結果として 仕方なくFAで大量に選手を獲得している という側面もあり、補強のコストパフォーマンスとしては決して高くないことが多い。毎年、FA解禁後動きのないチーム(今年だとDEN、昨年はDALが言われていた記憶)は「フロントにやる気がない」と叩かれがちですが、必ずしもそうではなく、補填ピックを大事にしているだけの可能性もあります。
個人的には、特に出てくる選手がかなり限られるWR、Edgeなどのプレミアムポジションで主力になる選手をFAに頼るのは賢い選択とは思いません。以下、「FAで取るべきポジション」だと思うものを挙げます。
5.1. RB
まず第一はRB。プレミアムポジションのFAが弱いということの裏返しで、非プレミアムポジションの代表格のRBについては、上で挙げたようなFAで獲ることの弱点がほとんどない と言えます。
理由1. 元々のサラリーが低く、インフレがほぼない
FAの欠点として「サラリーが高騰しがち」という点を挙げましたが、全ポジションでほぼ唯一、RBだけはキャップの上昇と共にインフレが起きていません。多少オーバーペイになったとて、たかが知れています。
RBのサラリーはキャップ上昇と比例してインフレしていない(FiveThirtyEight より)
保証額ベースで見るとさらに顕著で、2026年のドラフト1巡10位以内でRBを指名した場合、$30M以上を全額保証することになります。一方で2024年のFA陣はBarkleyが3年$26M保証、Henryは2年$16M(事実上1年契約)、Jacobsは保証額$12.5M(事実上1年契約)と、トップ選手すら実質単年でも契約できる状態。RBに関してはFAが「ローリスクハイリターン」のオプションになっているという構図です。
理由2. トップRBが市場に出てくる&活躍する
2026年のRB FAクラスを紹介するツイート:
そしてRBについては、延長の優先度が低いためトップ選手がきっちり市場に出てきます。今年もSuper Bowl MVPのKenneth Walker (SEA→KC, 25歳) やルーキー4年で3回1000ヤード走っているTravis Etienne (JAX→NO, 26歳) など、若手のトップ選手が市場に 出ます。去年はやや小粒でしたが、2024年はJosh Jacobs (LV→GB)、Saquon Barkley (NYG→PHI)、Derrick Henry (TEN→BAL) など、翌年のベスト3とも言える選手が全員FAでした。
All-Pro級のRBがdifference makerというのは間違いありません。パスも取れてミスタックルを誘発し一発ロングTDがあるのは間違いなく魅力。SFもCMCがいなかったら、NOもKamaraがいなかったらという試合はいくらでもあります。ただ、All-Proレベルの選手がFAで取れる確率はWRではゼロに近いですが、RBではリアルな確率 で存在します。
5.2. その他の非プレミアムポジション
RBほど劇的ではありませんが、以下のポジションもFAで効率的に埋められる傾向があります。ポイントとしては、
- 「フランチャイズタグが使いにくい」
- 「成績指標が分かりにくい」
- 「衰えにくい」
という3点です。
ILB: Off-Ball LBもドラフトでの価値効率が高くないポジションです。ILBはタグを貼るとOLB (Edge) の上位5人ベースでサラリーを計算されるので、実質タグが貼れず流出可能性も高い です。またパスカバーもタックルも明確な指標がないため、良い選手も必ずキープとなりにくい。さらにFAのゾーンである27〜30歳は全然衰える年でもない(Demario Davis, Bobby Wagner, Lavonte Davidなど30過ぎて一線級はたくさんいます)。
OG/C: ILB同様、IOLはフランチャイズタグの計算上不利(OL全体の枠のため、OTに引っ張られて割高に)で、タグを貼られにくい。OT優先してOGを残せない…というパターンもあります。とはいえ、Tyler Linderbaumレベルの争奪戦だと流石にオーバーペイになりそう。
S: 比較的タグは安いので貼られやすい一方、全盛期の選手がFA市場に出てくるケースが多い。2023年のJessie Bates III(CIN→ATL)、2024年のXavier McKinney(NYG→GB)はいずれも移籍先で大活躍ですね。
※ちなみに、この記事公開した直後にVoxさんがこんなデータを教えてくれました。確かにトップ選手にFAの割合が多いのはIOL, LB, Sの順と。
ポジション別トップ選手のFA輩出率(IOL, LB, S が高い)を示すツイート:
5.3. コンテンダーの「最後の1ピース」としてのベテラン
ベテランWRのFA市場投入を伝えるツイート:
ではプレミアムポジションに関してはというと、上述したように若手のいい選手は出てきませんが、ベテランはビッグネームが出てきます。彼らを獲得しても長い将来の解決にはなりませんが、1〜2年の活躍は見込めます。これを既にドラフトとトレードでチームのコアが出来上がっている優勝候補チームが、ベテランをピンポイントで「最後の1ピース」として加えるパターン ならありです。
昨年だとLARのDavante Adams獲得とかBUFのJoey Bosa獲得とかはこれ狙いのムーブで割と上手くいってましたね。今年のSFのMike Evans (31歳) 獲得とかがこれになれるか。
ただし、これが機能するのは「周囲の戦力が既に揃っている」場合 に限られます。再建に数年かかりそうなコンテンダー以外がベテランを取っても仕方ない。以下ポストのように、27歳前後の選手を取っているLVやTENは正しいです。本当、なんでNYJにDemario Davisを取られないといけないんですか。この成績でQBはGeno Smithなのにベテランかき集めてるのは相変わらず補強ヤバい。
若手FA中心に補強するLV・TENと対比されるチームを示すツイート:
6. まとめ:FAはチームビルディングの中心にはならない
以上、まとめると「FAで動いても重要ポジションで良い選手は獲得しづらい」という話でした。ネガティブに聞こえるかもしれませんが、裏を返せばドラフトとチーム内育成が圧倒的に重要 だということです。ドラフト&契約延長で重要ポジションの選手を押さえながらFAで穴埋めをする。それが長期的に勝てるチームビルディングの王道なのだと思います。
ただ、今年の代表例のLVについて言えば、オーバーペイ気味なのはFAの性質上仕方ないですが方向性はかなり良いと思います。C, LBx2という非プレミアムポジションは高額を使って人気選手を取りに行き、プレミアムポジションのWR, DE, CB, DEは2番手クラスを高過ぎない価格で確保しています。Crosbyのトレードが白紙になりましたが、彼はまだ28歳ですからそもそも出さないべき。ドラフトを当てつつ、ここら辺の20代後半選手から先発クラスがきっちり出て来れば強くなります。
LVのFA総括ツイート:
今年のFAは例年以上に盛り上がっていますが、「この選手はなぜ市場に出ているのか?」を問いながら見ると、また違った楽しみ方ができるかもしれません。長文の記事、お読みいただきありがとうございました。
7. 参考資料
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