"Franchise Player"になりたくない?今すぐ変えたいフランチャイズタグ制度5選(前編)
Ames · 2025年3月9日
さて、NFLで3月といえばシーズンが終わって、ニューオーリンズの契約再構築のFA解禁の季節...でもありますが、その前に一盛り上がりするのが フランチャイズタグの行使期限 です。TLを見ていると、今年は全体で2人しかタグが貼られなかった中でCINのTee Higginsが2年連続 ということが話題になっていました。
Tee Higginsへの2年連続フランチャイズタグを報じるツイート:
よく考えると 5年目オプション、デッドマネー とかはあるのにフランチャイズタグの記事はまだ書いたことないので、今回は 最近の実例を出しながら、この制度の仕組みや目的と(僕が思う)問題点について語ってみたい と思います。NFLの契約関係の仕組みって本当によくできています(MLBの大谷翔平の後払い契約の話とかみてると特に思います)が、これは珍しく、撤廃までは行かなくても変えてほしいと思う制度です。
前半の記事では、制度の概要とチームの目的、そして今年の3人の選手の貼られた理由/貼られなかった理由を考察 してみます。
1. フランチャイズタグとは?
まずは制度の概要です。詳しい方は飛ばしてください。
1.1. フランチャイズタグとは 「FA流出を止める」システム
FA解禁日とタグの関係を示すツイート:
NFLでは3月中旬に「新リーグ年度開始日 = FA解禁日」 が設定されており(今年は現地時間3/12)、つまり この日になると翌年度の契約がない選手は全員Unrestricted Free Agent(非制限FA, どのチームとも交渉が自由) になります。
通常は 残留させたい選手はFAが近くなる前に契約延長をまとめるのが理想的 (最近は特にこの傾向が強いためタグが減っています)ですが、以下のような理由で、「残したい選手がFA流出直前!」というケースはあり得ます。
- 契約最終年にブレイクした 例: Jaylon Johnson (CHI)
- 怪我の不安があって長期契約延長に踏み切れなかった 例: Saquon Barkley (NYG)
- 延長やトレードの交渉がまとまらなかった 例: Brian Burns (CAR)
こんな時に助けになるのが1993年に導入された「フランチャイズタグ制度」です。各チーム1年に1選手のみ、その選手をFA解禁の約1週間前までに指定する(タグを貼る)ことで、1年間の仮契約(フル保証、給料額は同ポジショントップ5の平均)を結ぶことができます。基本的に、重要な選手の流出を防ぐためのチームへの救済手段として設けられている制度です。
【余談:FAとフランチャイズタグの導入は同時】
実は、制限なしフリーエージェント制度(一定シーズン経過で他のチームと自由に交渉できる)が導入されたのもフランチャイズタグ導入と同じ1993年の労使交渉です。この際に「FA争奪戦によって年俸が高騰し、スター選手のチーム間移籍が激しくなりすぎる」ことを懸念して、オーナーたちがスター選手をロースターに残す仕組みとして考案した解決策が「フランチャイズタグ」でした。当時は「チームが最高の、そして最も重要な選手を「保護」する方法」として謳われて導入されました。
1.2. 2種類あるが基本は「非独占」タグだと思ってOK
細かく言うとタグには独占フランチャイズ、非独占フランチャイズタグ、トランジションタグという3つがありますが、正直 最近はほぼ全て非独占フランチャイズタグなのでこれだけ知っておけば十分 です。(特にトランジションタグは全然使われないし知っても仕方ない。割愛します)
【Non-Exclusive (非独占)フランチャイズタグとは】
- 過去5年の年俸上位5人の平均のサラリー を使った一年契約(全額保証)を適用(ただし、該当選手の前年年俸×1.2がこの値を超える場合はそっちを使う)
- 非独占なので、選手は タグ貼った元チーム以外の31チームとも交渉可能
- ただし、他チームがオファーを出した場合、貼ったチームは同じオファーを出せば引き止めることができる ("Match"と言います)
- 引き止めない場合、流出先のチームから1巡指名権2つ(その年&翌年)を補償として受け取れる
このように制度上一応他チームが交渉することも可能ではあるものの、1巡2つってほとんどの選手にとっては獲得の対価として高すぎ ますよね(しかも実は色々と制限がある)。なので タグを貼られたらトップQBなど以外は他のチームと交渉しても意味がなく、実質的には貼ったチームとしか交渉できません。独占タグを貼れば完全に独占交渉できるのですが、代わりにやや高くなるデメリットがあるため、「どうせ他のチームにはほぼ取られないんだから非独占で貼る」というのが最近の傾向です。
2025年版の各ポジションのサラリーとしては以下のような値です。トップ5の平均なので流石にある程度高くなるものの、ポジションによって高いか安いかの印象が結構違います よね(LBに$25Mは高いけどRBの$13Mは選手によっては全然いい)。これは後編でも触れますが、このポジション間の差によって行使のされやすさや行使の目的が結構変わります。
2025年版ポジション別フランチャイズタグ額一覧:
【余談:トップQBなのに非独占タグを貼られたLamar Jackson】
そして、最近ではトップ選手すら非独占タグを貼られたケースも。Lamar Jackson (BAL) は2023年に貼られた際に非独占の方だったので、「普通に1巡2つ出して交渉するだろ…」と言われました。しかし結果的には手を挙げるチームが現れず、Ravensと長期契約を結んで残留。GMの読みが正しかったことになりますが、ある意味Jackson的にも、自身の市場価値を知った上で納得してサインできたので良かったのではと思います。常々思いますがBALのGMは優秀。
ちなみにファルコンズのオーナーがこのタグの翌日に「うちはDesmond Ridderがいるから不要、Lamar怪我多いしあのスタイルじゃ長続きしない」的な発言してましたね。恥ずかしすぎる。
【余談:1年で1人しかタグが貼れないために困った2023 NYG】
通常「1年に1人」ルールが足枷になることは少ない(タグ貼ってまで残したい選手の交渉が何人もFA直前まで遅れてたらそれが問題)のですが、例外として2023のNYGがありました。5年目オプションを行使しなかった4年目QB Daniel Jonesと怪我から復帰し3年ぶりに1000ヤードを走った5年目エースRB Saquon Barkleyの活躍が要因で6年ぶりとなるプレーオフ進出&1勝。急遽、両者共に残留させたいという判断に…しかしタグを貼れるのは1人のみ ということで、
- Daniel Jones: タグ期限直前に4年$160Mで延長
- Saquon Barkley: タグ貼って1年残留
という形で両者を残しました。しかしその後の結果的にはBarkleyは延長がまとまらず翌年微妙だったのもあり流出、Daniel Jonesもこの年以降成績が右肩下がりで放出となりました。GMの判断は本当に難しい。
2. タグを貼る3つの目的
では、流出直前の選手にタグを貼る目的とは何でしょうか?
もちろんチーム状況や選手によって違いますが、大きく分けると以下の3つの目的でGMは「タグを貼る」という判断をすることが多いです(と言っても明確にこのうちの1つになるわけではなく、「1、ダメなら3」「2、最悪3」のようにグラデーションですが)。
2.1. 延長交渉の時間稼ぎ
最もシンプルで多いのはこれ。前年にブレイクした選手とかも大体このパターンですね。この場合、7月(今年は7/15)まで長期契約の交渉ができて、決まれば仮契約であるタグの契約は完全に消えます。2024年は、タグが貼られた8選手のうち5選手 (Josh Allen (JAX), Jaylon Johnson (CHI), Michael Pittman (IND), Justin Madubuike (BAL), Antoine Winfield (TB)) がすぐに(3月〜5月)契約延長しました。
2024年のタグ→即延長の例を示すツイート:
ただし、この予定で貼っても、選手がタグでプレーするのを拒否したり、長期契約がまとまらなかったりして以下2.2や2.3に流れるケースもあります。
2.2. タグトレード (Tag and Trade)
一方で、最初からそのつもりかどうかは分かりませんが、「長期契約はしないけど、トレードの対価が欲しいから一旦貼る」というパターンも。
FAで流出した場合、その選手が 他チームでどんなに高い契約を勝ち取っても貰えるのは最高で翌年の3巡97位の補填ピック です。「チーム事情などで契約延長はできないけど、他のチームに売ればこれ以上が手に入るというケース」はしばしばあり、そういう場合にも使われます。ただし、
- トレード先が見つかる見込みが高い
- トレードしたら3巡以上になる
- 最悪見つからなくてタグでプレーしても困らない
という条件が必要になるので、バリューが高いポジションのいい選手限定 です。実際過去の例を見てもEdgeとWRばかり。ちなみに2018年以降このケースが急増しています。
【2010以降のタグトレード例】
- 2018 Jarvis Landry (WR, MIA→CLE)
- 2019 Frank Clark (DE, SEA→KC)
- 2019 Jadeveon Clowney (OLB, HOU→SEA)
- 2019 Dee Ford (DE, KC→SF)
- 2020 Yannick Ngakoue (DE, JAX→MIN)
- 2022 Davante Adams (WR, GB→LV)
- 2024 Brian Burns (OLB, CAR→NYG)
- 2024 L'Jarius Sneed (CB, KC→TEN)
この場合、獲得するチームはトレード対価まで出して取りに行っているので、ほぼ全てのケースで契約延長されます(トレード当日or翌日に延長することが多い)。例外は上の中だとClowneyとNgakoueだけで、この二人はタグを貼ったチームでプレーすることを拒否し続けた結果7月以降にトレードされたので、延長交渉ができる期限が過ぎていました。こういう場合はトレードバリューが下がるし、サラリー負担させられることも。この時期のHOUとかJAXって限界すぎて、ファンの忍耐力を本当尊敬します。
タグトレードの例(Clowneyのトレードを報じるツイート):
また、放出する側の負担としては、タグのサラリーは全て保証はされているものの基本給扱いなので、デッドマネーはゼロ です。上手く決まれば美味しいのがタグトレード。
2.3. ただの1年契約
最後に比較的レアケースですが、フランチャイズタグを 「長期契約は嫌だけど今年はいてほしい」「見極めに時間が欲しい」 などの理由でただの1年契約として使う場合もあります。この場合延長もトレードもなく、翌年普通にFAとなるケースが多いです。
RBに1年契約として使われたタグの例を示すツイート:
最近特に印象に残ったのは2023のRB陣です。Saquon Barkley (NYG), Josh Jacobs (LV), Tony Pollard (DAL) の3人がタグを貼られました。怪我や劣化が激しいポジションなので長期契約はしたくない一方で、ポジションバリュー低下でトップの年俸稼ぐ選手が少ないので上位5位の平均をとっても延長する場合と比べて高くならない のが要因ですね。この面々と1年$10Mで契約できるのはお得とまで感じます。ただ、(翌年のパフォーマンスこそ良くなかったのもありますが)全員結局そのチームでは長期契約は結べず。翌年FAとなりました。
また、年契約として使われるパターンとしてはTEやSも多い です。これもおそらく、タグのサラリーが高くないという理由 ですね(どちらも最近トップ選手の年俸が上がってきたので減っていきそうですが)。
- TEの例: Hunter Henry (LAC), Dalton Shultz (DAL), Mike Gesitzki (MIA)
- Sの例: Marcus Maye (NYJ), Marcus Williams (NO), Jessie Bates (CIN)
3. 今年のケースは?
最後に、どのチームもファンではないので外から見た印象でしかないですが、今年話題になったケースを3つ、貼られた理由と貼られなかった理由を考えてみます。
3.1. Tee Higgins (CIN, WR) が貼られた理由
今年の一番の話題ですが、個人的なイメージではフロントの思惑は 「様子を見て、1と2と3全部可能性あり(延長したいけどまず時間稼ぎたい、いい相手見つかればトレード、それも無理ならタグでプレー)」 という感じです。
HigginsへのCINの2年連続タグを伝えるツイート:
ベンガルズは延長交渉が遅くなる傾向にあるチームではあるものの(Bengalsのオーナーにはお金がない)、このレベルの選手とすぐ延長できないおそらく最大の理由として、ベンガルズは同じポジションでHigginsより優先度が高いJa'Marr Chaseの契約延長が控えています。こちらがnon-QBの最高額級と予想されるので現時点でHiggins延長でキャップ&保証額を圧迫するのは避けたい。タグを貼れば7月まで交渉が延ばせるので、その間にChaseの延長を片付けてどうするか考えたい(万が一Chaseが延長できない場合Higginsは絶対残したいので)。
一方で、同ポジションで年$35M, $30Mのようなレシーバーを抱えるのも現実的ではなく、昨年と違って今年はHigginsの放出も現実的に考えているでしょう。とはいえ、複数回1000ヤード越えを達成している25歳WRということで、おそらく引く手数多ですし最低でも2巡は取れる選手 です。これを考えても、FAに出して補填ピック(最高でも3巡ラスト)というのは勿体無いので、延長が難しくてもタグを貼るのは当然です。また、タグのサラリーも去年($21.8M)の1.2倍の$26MということでトップWRと考えれば安い くらい。タグでプレーも選択肢に入ります。
一方で、Higgins側の立場としては難しい。昨年にタグ貼られた際は(同チームのJessie Batesと違って)あまりタグでプレーすることに文句を言ってなかった印象(これは偉い)ですが、WRは年齢で市場価値が下がる&怪我リスクも高いので、今年はもう一度トレード要求やトレーニングキャンプ休むくらいはやってもいい と思います。チームがChaseを本気で残す以上そこまで高い契約は望めないので、どこかに トレード→即延長がベストシナリオかも。
ちなみに、2年連続で貼られた人って延長しないケースが多いのかな…と思って調べたら、特にそんなことないみたいですね。半々。
2年連続タグ貼り後の延長率を調べたツイート:
3.2. Trey Smith (KC, G) が貼られた理由
これもHigginsと同様ですが、Higginsと比べても「2(タグトレード)もかなりある」と見ています。
Trey SmithへのKCのタグを伝えるツイート:
根拠としては、Gのフランチャイズタグのサラリーが高すぎる($24M)ので1年契約として使うのは得にならない 一方で、25歳という年齢や実績を考慮すると延長するつもりなら既にやっている と思うからです(実際、タグ前に延長すると思ってた)。
さらに、KCというチームがタグトレードが多い こと(過去にDee FordとL'Jarius Sneed)、キャップ状況が決して楽ではないことを考えると相手次第ですがトレードもかなり可能性あるかも。若いプロボウラーなので3巡は確実に取れます。(ただ、去年のSneedはタグ貼った時点で他のチームと話す許可与えててトレード濃厚でした、あとChuneyトレードした直後にさらにIOL減らすのか?って疑問も残る)
Mahomesが年$60M取っていくので当然と言えば当然なんですけど、KCってかなり延長の判断がシビアなチームなんですよね。一部のプレーヤーに集中投資で他はドラフトで埋めていく印象。ただそこの見切りと、対価獲得が上手い。Trent McDuffieレベルは流石に延長するのかな、CBだからないのかな。
3.3. Sam Darnold (MIN, QB) が貼られなかった理由
バックアップQBとしてMINと1年契約したDarnold。2024年にシーズン前の1巡ルーキーJ.J. McCarthyのシーズンエンドを機に先発を掴み、多くの期待を遥かに超えるキャリアハイの成績を残し14勝しました。プレーオフはダメでしたが、4300ヤード、35TD (12INT)でプロボウルにも選ばれました。
Darnoldのキャリアハイのシーズンを振り返るツイート:
MINがDarnoldの活躍でプレーオフに行けたのは紛れもない事実ですが、正直GMとしてはこういうのが一番判断難しいケースだと思います。選択肢別でまとめると、
- タグ貼って将来の先発QBとして交渉する
→ 1巡使ったJJ McCarthyの居場所がなくなる、去年がマグレだったら困る - タグ貼ってトレードする
→ QB事情は激しく変化する(各チーム先発QBは1人なので)のでトレード先が見つかる保証がない、争奪戦にならない限りトレード対価が3巡以上になる保証もない、トレードできないと$40Mの控えQBになる(そんなことはファルコンズやブラウンズでもない限り有り得ません) - タグ貼らずにFAに
→ McCarthyがバストでDarnoldが本物(O'Connellのシステムに合う)の場合大損、最高でも補填ピックの翌年3巡97位
と言う三者三様のリスクがあります。結局、選んだのは最もリスクが低いと思われる 3のタグを貼らない選択 でした。これは、QBのタグのサラリーが$40Mと高すぎて、また複数人が出場するポジションではない のが効いていますね。他のポジションだったり、より安いサラリーだったら残す方向に向かったと思います。
MINのO'Connell HCがDarnoldについて語る会見を伝えるツイート:
ちなみに、このHCのO'Connellの会見見ると、プレーオフ直後なのにもう発言が別れの挨拶なんですよね。MINの方針的にはDarnoldの成績関係なく来年はJJ McCarthyでほぼ決まっていたんだと思います。この決断が正しいかは将来になってみたいと分かりませんが、MINは2017と2019の恨みは消えないけど、今のGMとHCは何事も決断が潔くて好感度高いです。
【余談:割と似た状況だった2022年 49ers】
実は2021年に、49ersはTrey LanceをトレードアップしてWeek1指名したものの、その年はLanceは先発させず育成に充てました。するとGaroppoloはDarnoldのように大活躍…と言うほどではなかったものの勝負強さ(?)を見せてSBまで後一歩のNFCCまで進出しました。翌年の契約は残っていましたがサラリーが高く、トレードかリリースか残留か…と困った末に契約を見直して残留という第四の道を見出しました。この記事にその経緯を詳しく書いています。ただ、DarnoldはGaroppoloと違って元々翌年の契約がないのでさらに難しいですね。でも、もしかしたらどちらのQBも、プレーオフでSBまで行くくらい勝てていたら翌年のチーム方針が変わったかもなとも思います。1試合が重い。
4. 後編では:タグ制度の問題点について
ではここからが本題で、この制度のおかしなところを順番に指摘……と言いたかったのですが、流石に長い。今回はここまでにして、後半でタグ制度の問題点について書きたいと思います。
今回もお読みいただきありがとうございました。
5. 参考資料
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