Jimmy Garoppoloと49ersのwin-winな契約再構築
Ames · 2022年8月30日
「サラリーの記事は読んでもらいやすいけど、開幕に向けて盛り上がってるところでお金の話ばかりするのもなぁ…」と思い最近筆が止まっていたのですが、そんな中で Jimmy Garoppolo (SF) の契約再構築というニュース が飛び込んできました。
Jimmy Garoppoloの49ers残留と契約再構築を伝えるツイート:
個人的には8/30にリリースされると予想していただけに驚きで、内容をよく読んでみると(49ersファンなので贔屓目も入っているかもしれませんが)チームにもガロポロにもメリットがあり、他の選択肢と比べても非常に良い落とし所 だと思いました。NOも好きなので再構築と聞くと「またリボ払いか…」って頭が反応するのですが、こんなにハートフルな再構築 もあるとは知りませんでした。
元々のガロポロさんの契約も例として面白いので、今日はこの解説を記事にしてみます。
1. ガロポロさんの略歴
ガロポロさんのキャリアをご存知の方は飛ばして「2. 再構築前の契約の詳細」に進んで下さって大丈夫です。自分がNFLをリアルタイムで見てなかった時代のことも入るので怪しい。
1.1. バックアップ時代(2014–2017: NE→SF)
2014年ドラフトで2巡62位でNEに指名されたガロポロは、ルーキー契約期間の大半をTom Bradyのバックアップとして 過ごしました。2016年にはDeflategate事件で4試合の出場停止となったBradyの代役として2試合先発出場し勝利しています(残り2試合は負傷で欠場)。
ルーキー契約最終年の2017年、ガロポロに大きな転機が訪れます。40歳になっても一向に衰えないBradyを見て、NEはトレード期限間際に QB 2番手のガロポロをSFにトレードしました(対価はその年の2巡指名権)。
ガロポロのSFへのトレードを伝えるツイート:
当時のSFにはフランチャイズQBがおらず、このトレードまで開幕8連敗。翌年のキャップスペースが$116M余っていたようで、かなりの再建期です。ところがWeek 13に ガロポロが先発に指名されると、QBを変えただけでここまで変わるかというほどの劇的な変化 で、それまで1-10だったSFは5連勝でシーズンを終えます。
1.2. 先発QBとして(2018–2021: SF)
復活の狼煙を上げた49ersは、オフにすぐさまガロポロと契約を延長。これが今回の再構築の前の5年$137.5Mの契約(2018–2022) です。年平均 (APY) だと当時最高額。資金的に余裕があったとはいえ、期待の高さが窺えます。
その後、詳細は省きますが49ersの先発QBとして4年間務め、大きな怪我がなかった2019年(13勝3敗、SB出場し敗退)と2021年(9勝6敗、NFCCで敗退)には好成績を収め、それぞれプレーオフでも2勝 を挙げています。MVPやPro Bowlに選ばれるような成績ではないですが、「結果を残していない」「年俸に見合わない」というものでは決してありません。
2021年シーズンのガロポロのパフォーマンスを伝えるツイート:
1.3. Trey Lanceへ先発QBが移行(2022)
一方で、49ersは2021年ドラフトで 1巡3つを使ってトレードアップを行い、全体3位でQBのTrey Lance(North Dakota State)を指名 しました。
1巡でトレードアップしてQBを指名するというのは、その選手がチームの今後10年を担うフランチャイズQBになることを期待するということ です。Lance指名の時点で、基本的に2022年が契約最終年のガロポロの契約延長の目は無くなりました(GBとRodgers, Loveの例を言う人がいるかもしれませんが、あっちがおかしい)。
後述のno-trade clauseとLanceの育成期間のために2021はガロポロ先発でしたが、(遅くとも)2022年からはLance先発というのは初めから決まっていたでしょう(Alex Smithの控えを1年やったPatrick Mahomesと一緒ですね)。
Trey Lance指名後のSFのQB状況を示すツイート:
かといって ガロポロはバックアップには高すぎるサラリーであり、また衰える兆候はなく先発QBの実力は持っています。 49ersにとっても本人にとっても、そのオフでガロポロをトレードできると理想的でした。
というのがここまでの流れです。
2. 再構築前の契約の詳細
ガロポロさんの契約詳細を、デッドマネーの記事 で使ったグラフにまとめます(Workout bonus, 2年目以降のRoster Bonusは少ないので無視しています)。
※グラフの網目部分はサイン時に保証された額を示しています。
この契約をよく見ると、以下の2つのことが読み取れます。
2.1. ポイント1:契約前半はガロポロにフルコミット、2019年からに勝負を賭ける
QBの大型契約としては異例なことに、契約1年目のキャップヒットが異様に高い($37M) です。普通はbackload型(後半ほどキャップヒットが大きくなる)にして、途中で選手をカットした場合に負担が少なくします。
これは、当時再建期でキャップスペースに余裕があったSFが、2019年以降が勝負の年になると判断し2018年でガロポロのサラリーを消費するという判断 をしたという考えが一般的です。2018年にサラリーを大量に払うことで2019年以降のキャップヒット・保証額を減らし、その期間に勝負を賭けたと言えるでしょう(保証額については デッドマネーの記事 をご参照ください)。
また、この契約には no-trade clause(ノートレード条項) が付いています。これがあると 選手がトレード拒否権を持ち、チームは該当選手のトレードを勝手に行えません(当時Russel WilsonやDeshaun Watsonの移籍によって注目されましたね)。SFがガロポロを長期のフランチャイズQBとして見ていた ということが現れています。
2.2. ポイント2:契約後半(特に最終年)にはガロポロからの移行も視野に
興味深いのが、この契約では no-trade clauseが契約全体で有効ではなく、最終年の2022年だけ切れる設定 になっています。契約締結時点から、最終年には、ガロポロをトレードして次のQBに移行することを考えていたことが読み取れます。長期契約締結時点でガロポロは若くはなく(27歳)、怪我歴もあったためこれは納得です。
保証額・サインボーナスの少なさを見ても同じこと読み取れます。特に今年リリース/トレードした場合、デッドマネーはSigning Bonusの2022年度分($1.4M)のみで、残りのサラリー$24.2Mは丸々浮く ことになります。後半カット/リリースしてもほぼノーダメージにしてあります。
3. SFの誤算:まとまらなかったトレード
このように考えると、ガロポロの契約に現れるSFのチーム作りの戦略が成功しているのが分かると思います。
キャップヒットを増やした2018年は4勝に沈んで翌年のドラフトでDEの Nick Bosa を1巡、WRの Deebo Samuel を2巡で獲得。彼らが大きな力となり2019のSB出場、2021年のNFCCとプレーオフでも躍進を果たしました。そしてガロポロは2021年まで先発を務めたため、デッドマネーに苦しむことはありません。もちろんベストシナリオだった「ガロポロが超一流のQBになり、2019年のSBでKCに勝って制覇し、さらに契約延長して黄金時代を築く」というのは叶いませんでしたが、新QBのTrey Lanceが先発する準備・周りの環境とタレントはこれ以上ないほど充実しており、スムーズなQB移行 だと言えると思います。Lanceがルーキー契約でサラリーが低いあと3年の間に勝負を再び賭ける ことができます。
その中でSFにとって 計画外だったと思われるのは、そのオフにガロポロのトレードがまとまらなかったこと です。理由は諸説ありますが、
- ガロポロの肩の怪我が完治するまで様子を見ており、その間に各チームの先発QBが固まった
- 契約が残り1年でサラリーが高い(移籍先が$24.2M負担)
が私の思う大きな原因です。
これにより、SFとガロポロに残された道は主に次のものとなりました。
3.1. 残された選択肢1:リリース
大方の見方がこれでした。リスクは一番少ない。
- メリット: 今年のキャップヒット$24.2M分が完全に浮く、枠が空く
- デメリット: ドラフト指名権は得られない、シーホークスと再契約しそう
ガロポロのリリース報道を受けたツイート:
3.2. 残された選択肢2:トレードが決まるまでキープ
端的に言うと、他チームのQBの怪我待ち です。個人的にはこれ推しでした。
- メリット: 上手くいけば上位指名権も狙える、バックアップQBになる
- デメリット: 毎週Base salary 約$1.4Mを払い続ける、トレード先が結局見つからないと無駄
(「怪我したからって他からQB取らなくない?」と思う方もいるかもしれませんが、2016年のMINの前例があります。8月の練習中に先発QBだった Teddy Bridgewater がシーズンアウトの大怪我を負ったMINは、すぐに翌年の ドラフト1巡を出してPHIからSam Bradfordを獲得 しました。チームによっては戦略的に今年を捨てられないところも多い(当時で言えばTB、BUF、GBとか)のであり得ます。)
QBの怪我によるトレード需要発生の可能性を示すツイート:
3.3. 残された選択肢3:条件を下げて無理やりトレード
年俸の一部を負担して、無料同然みたいな対価で他チームに売る手法です。ちょっと状況は違いますが、Baker Mayfield (CLE→CAR) のパターンですね。
- メリット: 一応指名権は得られる、移籍先チームを選べる(シーホークスには行かない)
- デメリット: キャップヒットは完全には浮かない、上位指名権は無理
年俸負担してのトレード例(Baker Mayfield)を紹介するツイート:
4. 第4の道:契約再構築
このように、どの選択肢もパッとしないため、個人的にはリスクが一番少ないリリースになるだろうと思っていました。
そんな中で飛び込んできたのが今日のニュース「2022年の契約を再構築してガロポロが49ersに一旦残留する」でした。要約すると
- 2022年の契約を再構築して、Base salary $6.5M(フル保証、プレー時間によってインセンティブがあり、$16Mまで最大上がる可能性あり) になる
- No-trade clause, No-tag clause が付く(本人の許可なしにトレード不可、来年フランチャイズタグでキープも不可)
という内容で、これは 残された選択肢3つの間を取り、チームとガロポロ両者に一定のメリットを残した形 と言えます。
4.1. チームのメリット1:サラリーを減らしてバックアップとしてキープできる
チームにとっては再構築でサラリーを減らしたことで、(若干高いものの)バックアップQBとしてガロポロをキープ することができます。Lance先発は余程のことがないと揺るがないでしょうが、怪我した場合に後ろにガロポロが控えている というのは非常に強い。
4.2. ガロポロのメリット1:サラリーは減らしたが保証された
一方で、ガロポロにとっても既定路線だったリリースの場合だと、再契約先がスムーズに見つかるとは限りません。サラリーが下がるかもしれないし、チーム状況が悪いところしか見つからないかもしれません。しかし今回の再構築により、最低でも「49ersのバックアップ職(サラリー$6.5M)」は確保できることになりました。
4.3. チームのメリット2:トレードの可能性を引き続き探れる
また、チームはバックアップとしてキープすることにより、トレードでドラフト指名権を得る可能性を残せます。トレードした場合の 移籍先チームのキャップヒットを$24.2Mから$6.5Mに減らしたことで、キャップに余裕がないチームも手を出しやすくなりました。
「拒否権発動されたら終わりでは?」と思うかもしれませんが、Lanceが怪我しない限り先発の機会がないSFと異なり、ガロポロは先発QBとして試合に出られるチームに移籍すればインセンティブを得て現在のサラリー$6.5Mを$16Mまで引き上げることができます。ガロポロにとっても移籍のメリットがある形 を作って、チームとガロポロ両者にとって良いオファーがあればトレードできるようにしています。
4.4. ガロポロのメリット2:先発できるチームをトレード先として選べる
ガロポロにとっては、今回no-trade clauseが付いたことによって、以前と違い 移籍先を選べる ようになりました。これにより、チーム状況、先発出場/契約延長の可能性があるチームに移籍できます(例えばWeek 13でDeshaun Watsonが復帰するBrownsなどにトレードされてしまうと、先発QBの座が保てずインセンティブが得られません。先発保証 or 契約延長してくれるチームに移籍できるようにno-trade clauseが必要です)。
また、no-tag clauseが付いているため、今シーズン終了後はFAとなりキープされることがありません。バックアップ職 or 他チームの先発の後、来年はチームに縛られずに新たな契約を結べます(この条項には、まだ先発でやれるというガロポロの自信が伺えます)。
5. まとめ
自分は49ersファンなのでチームにとって良い結末(ドラフト指名権がトレードで得られる)のが理想な一方で、ガロポロも大好きな選手なので良い環境に行って欲しく、今回の去就関連の話はどれも複雑な心境でした。BrownsでWatsonの穴埋めとして使われたり、Seahawksに行ってSFのファンにブーイングされているのなんて見たくないからです。
そんな中、両者が選んだ契約再構築の内容は バックアップとしての役割を厭わないガロポロと、トレードする場合でもガロポロに良い環境を用意したいと思える49ersの信頼関係 が前提にあるもので、心が温かくなりました。今年をバックアップで終えるにせよ、本人が納得できるチームに移籍するにせよ、ガロポロの49ersでのキャリアに明るいエンディングが期待できそうです。来年以降も、まず間違いなく49ersではないでしょうが、新たにフィットする良いチームに巡り合って、まだまだキャリアを続けてほしいですね。
長文の記事、最後までお読みいただきありがとうございました。
契約再構築に対するSNSの反応:
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