アーロン・ヘルナンデス事件とは
  • 中心となる事件: 2013年6月17日にOdin Lloydが殺害され、PatriotsのTE Aaron Hernandezが第一級殺人罪などで起訴された
  • 司法判断: 2015年、陪審がLloyd殺害について有罪評決を出し、Hernandezには仮釈放なしの終身刑が言い渡された
  • 別事件との区別: Daniel de AbreuとSafiro Furtadoが死亡した2012年のBoston二重殺人では、2017年に殺人罪について無罪となった。銃の不法所持では有罪だった
  • 死亡と上訴: Hernandezは2017年に収監中に死亡し、当局は自殺と判断した。未了の上訴を理由に有罪判決が一時破棄されたが、Massachusetts州最高裁は2019年に判決を復活させた
  • CTE: 死後の神経病理検査でCTE Stage 3と診断された。ただし、この所見だけから個別の犯罪行動や死亡との因果関係を確定することはできない

1. Patriotsの若いスターTE

Aaron HernandezはUniversity of Floridaで2009年のJohn Mackey Awardを受賞し、2010年NFL Draftの4巡113位でNew England Patriotsに指名された。ドラフト前からフィールド外の懸念が報じられた一方、NFLではRob Gronkowskiとともに2TEオフェンスの中心となった。[1][2]

3シーズンで175回のレシーブ、1,956ヤード、18TDを記録し、Super Bowl XLVIにも出場した。2012年8月にはPatriotsと5年4,000万ドルの契約延長に合意。23歳で、リーグを代表するTEの一人として長期的な地位を得たように見えた。[1]

Patriots在籍中のAaron Hernandez(撮影: Jeffrey Beall, 2011, CC BY 3.0, Wikimedia Commons より)Patriots在籍中のAaron Hernandez(撮影: Jeffrey Beall, 2011, CC BY 3.0, Wikimedia Commons より)

2. Odin Lloydの死亡と捜査

2013年6月17日、27歳のOdin LloydがMassachusetts州North Attleboroughの工業団地で死亡しているのが発見された。Lloydはセミプロのフットボール選手で、Hernandezの婚約者の姉妹と交際していた。[1]

捜査は、Lloydが所持していたレンタカーの鍵、携帯電話の記録、自宅の監視映像、目撃証言などをたどってHernandezとLloydが死亡直前に行動をともにしていた経緯を追った。Lloydが殺害された理由は、公判でも明確には確定しなかった。

6月20日、ABC Newsは匿名の捜査関係者の話として、Hernandezの自宅セキュリティーシステムが意図的に損傷され、使用していた携帯電話が分解された状態で捜査側へ渡されたと報じた。これは起訴前の捜査段階における関係者報道である。[3] 後の公判では、回収された監視映像や携帯電話記録を含む多数の証拠が検察から提示されたため、有罪評決をこの初期報道だけで説明することはできない。[4]

3. 逮捕とPatriotsからの放出

Hernandezは6月26日に逮捕され、Lloyd殺害に関する第一級殺人罪と銃器関連罪で起訴された。Patriotsは同日、Hernandezを放出した。[1]

Aaron Hernandezが2010年から2012年までプレーしたPatriotsの本拠地Gillette Stadium(撮影: Art N., 2007, CC BY 2.0, Wikimedia Commons より)Aaron Hernandezが2010年から2012年までプレーしたPatriotsの本拠地Gillette Stadium(撮影: Art N., 2007, CC BY 2.0, Wikimedia Commons より)

逮捕時点では起訴された被告人であり、有罪が確定していたわけではない。チームの契約上の判断と、刑事裁判における有罪・無罪の判断は別の手続である。

事件の衝撃が大きかったのは、Hernandezが引退後の元選手ではなく、前年に大型契約を結んだ現役選手だったためでもある。Patriotsはユニフォームの交換対応を行い、チームはHernandezを戦力計画から直ちに切り離した。

4. Odin Lloyd事件の有罪評決

2015年4月15日、陪審はHernandezをOdin Lloyd殺害に関する第一級殺人罪と銃器関連罪で有罪とした。Massachusetts州法に基づき、仮釈放なしの終身刑が言い渡された。[4]

検察は、自宅の監視映像、携帯電話記録、目撃証言などを組み合わせ、HernandezがLloydとともに現場へ向かい、殺害へ関与したと主張した。弁護側は最終弁論でHernandezが現場にいたことを認めながら、発砲したのは同行者であり、Hernandezは突然の出来事を目撃したと主張した。

第一級殺人罪の成立には、Hernandez自身が発砲した人物であると陪審が特定する必要はなかった。陪審は約7日間、計36時間にわたり評議し、有罪評決へ至った。[4]

Odin Lloydは、事件を説明するための「NFLスター転落物語」の小道具ではない。27歳で命を奪われた被害者であり、裁判の中心はHernandezのキャリアではなく、Lloydの殺害に対する刑事責任だった。

5. 2012年Boston二重殺人は無罪

HernandezはLloyd事件とは別に、2012年にBostonでDaniel de AbreuとSafiro Furtadoが殺害された事件でも起訴された。検察は、ナイトクラブでの接触をきっかけにHernandezが2人の乗る車へ発砲したと主張した。弁護側は、同行していたAlexander Bradleyが発砲したと反論した。

2017年4月14日、陪審はde AbreuとFurtadoの第一級殺人罪についてHernandezを無罪とした。一方、銃の不法所持1件では有罪となり、4年から5年の追加刑が言い渡された。[5]

この無罪評決を、Odin Lloyd事件の有罪まで取り消されたかのように扱うのは誤りである。二つの裁判は、被害者、事件、証拠、評決が異なる別手続だった。

6. 収監中の死亡と有罪判決の法的状態

二重殺人裁判の無罪評決から5日後の2017年4月19日、Hernandezは収監先で死亡した。Massachusetts州当局は自殺と判断した。直前の無罪評決と死亡との因果関係は、確認された事実として断定できない。[1]

当時のMassachusetts州には、被告人が上訴を終える前に死亡した場合、刑事手続を当初の状態へ戻して有罪判決を破棄する「abatement ab initio」という判例法上の原則があった。HernandezのOdin Lloyd事件は上訴中だったため、2017年5月に有罪判決が一時的に破棄された。

2019年3月、Massachusetts州最高裁はこの原則を廃止し、Hernandezの有罪判決を復活させた。同時に、Hernandezの死亡により上訴の実体判断は行われず、有罪判決が上訴審で「維持も破棄もされなかった」ことを記録へ残すとした。[6]

したがって現在の法的状態は、「Odin Lloyd事件の有罪判決は復活しているが、Hernandezの死亡により上訴審で本案の判断は完了していない」と整理するのが正確である。

7. 死後に確認されたCTE

Hernandezの家族は死後、脳をBoston UniversityのCTE Centerへ提供した。2017年9月、神経病理学者Ann McKeeらは、特徴的な死後病理所見に基づきCTEを4段階中のStage 3と診断した。別の神経病理学者も診断を確認し、前頭葉への重いタウ蛋白の沈着、早期の脳萎縮などが報告された。[7]

CTEは反復する頭部への衝撃と関連する神経変性疾患で、衝動性、抑うつ、記憶や認知の変化などとの関連が研究されている。しかし、関連する症状の一覧と、一人の具体的な行動の原因は同じではない。

HernandezのCTE所見は、若い元選手に深刻な脳病理が確認された重要な事例である。一方で、「CTEがOdin Lloyd殺害を引き起こした」「CTEがHernandezの死亡を決定した」と結論づけることはできない。病理所見は、刑事裁判の証拠や有罪評決を置き換えるものでもない。[7][8]

8. Netflix作品と「一つの原因」へまとめる危険

Hernandezの事件は、2020年のNetflixドキュメンタリー『Killer Inside: The Mind of Aaron Hernandez』、Boston Globeの調査報道とポッドキャスト『Gladiator』、2024年のFXドラマ『American Sports Story: Aaron Hernandez』などで繰り返し映像化された。[1][9]

Hernandezを扱った査読論文「Making a murderer: Media renderings of brain injury and Aaron Hernandez as a medical and sporting subject」は、多くの記事がCTEと行動の因果関係に不確実性があると述べながら、物語の構造としては脳病理から犯罪行動へ直線を引く傾向を指摘した。[8]

幼少期、家族関係、性的指向をめぐる報道、薬物使用、競技中の頭部衝撃など、Hernandezの人生には数多くの要素が語られてきた。しかし、それらのどれか一つを殺人の原因として提示することは、確認された範囲を超える。人物の内面を推測することより、被害者、個別の司法判断、病理所見、メディアによる解釈を分けることが、この事件を慎重に理解する出発点となる。

9. 出典

[1] A timeline of Aaron Hernandez's football career, criminal cases and death
CNN, 2024年10月21日 — NFLキャリア、刑事手続、死後の報道までの年表
cnn.com
[2] Aaron Hernandez
Wikipedia — キャリア・事件・裁判・死後の経緯を確認する概観資料
en.wikipedia.org
[3] Aaron Hernandez Destroyed Home Security System and Phone, Sources Tell ABC News
ABC News, 2013年6月20日 — 起訴前の捜査関係者報道。匿名情報であることを区別して参照
abcnews.com
[4] Aaron Hernandez found guilty of first-degree murder
NFL.com / AP, 2015年4月15日 — Odin Lloyd事件の有罪評決、量刑、公判証拠
nfl.com
[5] Aaron Hernandez acquitted in double-murder trial
NFL.com / AP, 2017年4月14日 — Daniel de Abreu、Safiro Furtado事件の無罪と銃不法所持の有罪
nfl.com
[6] Aaron Hernandez's Murder Conviction Reinstated By Mass. High Court
WBUR, 2019年3月13日 — Massachusetts州最高裁による有罪判決復活とabatement原則の廃止
wbur.org
[7] BU CTE Center Statement on Aaron Hernandez
Boston University CTE Center, 2017年9月21日 — Stage 3 CTEの死後病理所見と確認手続
bu.edu
[8] Making a murderer: Media renderings of brain injury and Aaron Hernandez as a medical and sporting subject
Social Science & Medicine, 2020 — CTEと犯罪行動を結ぶメディア表象の査読研究
pmc.ncbi.nlm.nih.gov
[9] Killer Inside: The Mind of Aaron Hernandez
Netflix, 2020年 — 事件を扱った全3話のドキュメンタリーシリーズ
netflix.com