- 出来事: Mark Sanchezが壊れたハンドオフプレーから前進し、味方RG Brandon Mooreの背中側へ衝突してファンブルした
- 試合: 2012年11月22日、Thanksgiving Night。New England Patriots対New York Jets(MetLife Stadium)— Patriots 49–19 Jets
- 結果: Steve Gregoryがボールを拾い、32ヤードのファンブルリターンTD。Patriotsは21–0とした
- 連鎖: 直前のShane Vereenの83ヤードTDから、直後のJulian EdelmanのファンブルリターンTDまで、Patriotsは52秒間に3TDを記録した
- レガシー: SportsCenterの珍プレー企画で40週連続首位となり、NFL公式の「100 Greatest Plays」にも悪名高い一場面として収録された
NFL公式のプレー映像:
The Butt Fumble! | NFL on Thanksgiving(NFL公式) — YouTube で見る ↗同じプレーをX上ですぐ再生できる映像:
1. Thanksgiving Nightの全米中継
2012年11月22日、MetLife Stadiumで行われたNew England Patriots対New York Jetsは、NBCが全国放送するThanksgiving Nightの試合だった。Jetsは4勝6敗。AFC Championshipへ進んだ2009、2010年の勢いを取り戻せず、地区首位のPatriotsを追っていた。
第1クォーターは0–0だったが、第2クォーター開始直後にTom BradyがWes Welkerへ3ヤードTDパスを通し、New Englandが7–0と先行した。それでも試合が完全に壊れるまで、わずか数分しかかからなかった。
試合会場MetLife Stadiumの旧称New Meadowlands Stadiumで行われた2010年の試合(撮影: RYANonWIKIPEDIA, 2010, Public Domain, Wikimedia Commons より)
2. 52秒間に起きた3つのTD
公式ゲームブックで追うと、Jetsの崩壊は一つの珍プレーではなく、オフェンス、ディフェンス、スペシャルチームにまたがる連鎖だった。
- 残り9分43秒: Jets RB Shonn Greeneが4th&1でファンブル。Steve GregoryがPatriots陣19ヤードで回収し、次のプレーでTom BradyからShane Vereenへの83ヤードTDパスが決まった
- 残り9分00秒: Mark SanchezのファンブルをGregoryが32ヤードTDへ返し、21–0
- 残り8分51秒: 続くキックオフでJoe McKnightがファンブル。Julian Edelmanが22ヤードTDへ返し、28–0
最初のTDが記録された9分43秒から、3本目が記録された8分51秒まで、ゲームクロックでは52秒。New Englandの攻撃TD、守備TD、キックオフカバーでのファンブルリターンTDが連続した。Jetsは第2クォーターに12分以上ボールを持ちながら、35–3と大差をつけられた。
3. 9分10秒、壊れたプレー
Jetsは自陣31ヤードで1st&10。Mark Sanchezはスナップ後、FB Lex Hilliardへ右方向のハンドオフを行うはずだったが、左へ開いた。HilliardはSanchezの右側を通過し、ボールを受け取れない。Sanchezは壊れたプレーを最小限の損失で終わらせようと、ボールを抱えて中央へ走った。
その正面ではRG Brandon MooreがPatriots DT Vince Wilforkをブロックしていた。Sanchezは倒れ込むように前進し、Mooreの背中側へ頭から衝突。ボールが右へこぼれ、Gregoryが拾って誰にも触れられずエンドゾーンまで走った。
公式ゲームブックの表現は簡潔である。
"M. Sanchez up the middle to NYJ 32 for 1 yard. FUMBLES."
(「M. Sanchezが中央を1ヤード前進し、NYJ 32でファンブル」)
映像ではWilforkがMooreを押し込む様子も見えるが、「WilforkがMooreをSanchezへぶつけたことだけが原因」と単純化はできない。出発点は、Sanchezがハンドオフの方向を取り違えたメンタルエラーだった。Mooreは自分の担当をブロックしており、接触を予想できる位置にはいなかった。
Jets在籍1年目のMark Sanchez(撮影: Ed Yourdon, 2009, CC BY-SA 2.0, Wikimedia Commons より)
4. Sanchezが説明した「最悪の場所」
Sanchezは試合後、本来と違うプレーを頭に思い浮かべていたことを認めた。渡す相手がいないと気づき、前へ出てボールを守りながら倒れ、次のdownへ進もうとしたという。
6日後の回顧では、自分がしたかったことと、実際に倒れた場所の落差をこう表現した。
"I start to slide and I slide in the worst spot I possibly could."
(「倒れようとして、考えられる中で最悪の場所へ滑り込んでしまった」)
プレーそのものは、QBとOLの位置が偶然重なり、ファンブルが守備選手の目の前へ転がり、TDまで返された一連の事故だった。しかし「味方の尻へ衝突してボールを失う」という映像上の分かりやすさが、通常のファンブルとは違う名前と記憶を与えた。
5. 珍プレーからミームへ
全米向けのThanksgiving中継だったことも、映像の拡散を加速させた。NBCのカメラは接触、ボールがこぼれる瞬間、Gregoryのリターン、呆然とするJetsのサイドラインまでを繰り返し映した。試合は49–19で終わったが、最終スコア以上に一つの映像が結果を代表するようになった。
ESPNのSportsCenterが選ぶ「Not Top 10」では、視聴者投票により40週連続で首位を維持した。あまりに長く残ったため、番組は最終的にこのプレーをランキングから「引退」させた。
NFLの100周年企画「100 Greatest Plays」でも99位に登場した。ただし、これは優れた技術を称える通常の名プレーとしてではない。NFL公式自身が、悪名とともに生き続ける一場面として取り上げたものだった。
6. 一人の失敗ではなく、チームの崩壊
Butt FumbleはMark Sanchezの代名詞になり、2019年にNFLが引退を報じた際にも「一般の人々に最も残る記憶」として言及された。一方で、この一つのプレーがSanchezのキャリアを終わらせたと断定することはできない。Sanchezはその後も複数球団でプレーし、NFLで10シーズンを過ごした。
この52秒間を通して見ると、Jetsは4th downでの攻撃ファンブル、83ヤードの被TD、QBのファンブルリターンTD、キックオフでのファンブルリターンTDを連続して許している。Sanchezの衝突だけを切り取ると喜劇に見えるが、試合の文脈では、オフェンス、ディフェンス、スペシャルチームが一度に崩れた時間だった。
珍プレーとして残った理由は、失敗が珍しかっただけではない。全国放送の大舞台、短時間の連鎖、誰にでも理解できる映像、そして「Butt Fumble」という短い名前がそろった。NFL史上でもっとも説明不要なミームの一つは、わずか52秒の崩壊から生まれた。
7. 関連する「Butt」プレー
Butt Fumbleから5年後にはMarshon Lattimoreが臀部でボールを地面から守った「Butt Interception」、10年後にはThomas Morsteadのパントが味方の臀部へ当たった「Butt Punt」が生まれた。いずれも名プレー・珍プレー集から動画付きで確認できる。