マイケル・ヴィック闘犬事件とは
  • 事件: Atlanta Falcons QB Michael VickらがVirginia州Surry Countyで運営した「Bad Newz Kennels」をめぐる闘犬事件
  • 発覚: 2007年4月、Vick所有地の家宅捜索から多数の犬と闘犬設備が見つかり、7月に連邦大陪審が起訴した
  • 司法処分: Vickは連邦法上の共謀罪を認め、2007年12月に禁錮23か月。Virginia州でも2008年に闘犬罪を認めた
  • NFL処分: 2007年8月に無期限出場停止。服役後の2009年7月に条件付きで復帰を認められた
  • 見落としてはいけない点: これは選手の「転落と復活」だけの物語ではない。犬たちは犯罪の被害者であり、個体ごとの評価と長期的な保護が事件後の重要な変化になった

Bad Newz Kennelsから救出された犬たちの、その後を伝える映像:

1. 2007年4月、Moonlight Roadの捜索

事件の舞台はVirginia州Surry County、Moonlight Roadにあった約15エーカーの土地だった。Michael Vickが所有するこの土地を2007年4月に当局が捜索し、多数の犬、犬舎、トレッドミル、闘犬に関係する器具を発見した。当初の捜索はVickのいとこに対する薬物捜査から始まったが、そこで別の犯罪の証拠が見つかった。

2007年7月17日、連邦大陪審はVickら4人を、州境を越える闘犬事業と賭博に関する共謀罪で起訴した。起訴状と後の合意事実によれば、Bad Newz Kennelsは2001年ごろから運営され、犬を訓練し、Virginia州内外で闘犬を行い、結果に金銭を賭けていた。

この時点でVickはNFLを代表するスターの一人だった。2001年ドラフト全体1位でAtlanta入りし、2004年には10年総額1億3,000万ドルの契約を結んでいた。だが事件の中心は契約額でもキャリアでもなく、娯楽と賭博のために犬を戦わせ、傷つけ、殺した犯罪だった。

事件発覚前年、Atlanta FalconsでプレーするMichael Vick(撮影: Keith Allison, 2006年, CC BY-SA 2.0, Wikimedia Commons より)事件発覚前年、Atlanta FalconsでプレーするMichael Vick(撮影: Keith Allison, 2006年, CC BY-SA 2.0, Wikimedia Commons より)

2. Vickが認めた事実

Vickは当初、関与を否定した。しかし共犯者が相次いで有罪を認めた後、2007年8月23日に司法取引へ合意し、8月27日に連邦裁判所で有罪答弁を行った。

合意事実でVickは、Bad Newz Kennelsへ資金を提供し、犬の購入、飼育、訓練、闘犬に関与したことを認めた。また2007年4月ごろ、闘犬で成績の悪かった犬およそ8頭を、共犯者らとともに吊るす、溺死させるなどの方法で殺したことも認めている。闘犬の賭け金を用意したことは認めた一方、自分自身が賭けの勝ち金を受け取ったことは否定した。

記者会見でVickは次のように謝罪した。

"I offer my deepest apologies to everyone. And I will redeem myself."

(皆さんに心からおわびします。そして自分自身を立て直します)

謝罪の言葉と、裁判で認定された行為は分けて考える必要がある。後の社会貢献やNFL復帰は、犬たちが受けた被害を消すものではない。

3. 三つの手続――連邦、Virginia州、NFL

この事件では、異なる権限による三つの手続が並行した。

主体対象主な結末
連邦裁判所州境を越える闘犬事業・賭博に関する共謀2007年12月10日、禁錮23か月
Virginia州裁判所州法上の闘犬2008年11月25日に有罪答弁、執行猶予付き3年
NFLリーグの行動規範2007年8月24日に無期限停止、2009年7月27日に条件付き復帰

連邦判決の23か月は、Vickが有罪答弁前から当局へ完全には協力せず、薬物検査にも問題があった点などを裁判官が考慮した結果、検察の求刑上限18か月を上回った。Vickは2009年5月に自宅拘禁へ移り、7月20日に連邦刑の拘束を終えた。

NFLコミッショナーRoger Goodellはその1週間後、すぐに全面復帰させたのではなく、練習とプレシーズン参加を認めたうえで、レギュラーシーズン出場は再審査する条件付き復帰とした。Philadelphia Eaglesは8月13日にVickとの契約へ合意し、Goodellは第3週からの出場を認めた。

4. 51頭の生存犬と「Vicktory Dogs」

ASPCAによれば、捜査では生存していた51頭の犬と、死亡した9頭の遺体が証拠として確保された。連邦裁判所はVickに、犬の終生飼育とリハビリ費用として約100万ドルを供託するよう命じた。

当時、闘犬場から救出された犬は一律に危険とみなされ、安楽死させられることも多かった。この事件では専門家が1頭ずつ行動を評価し、47頭が保護団体や里親のもとへ移された。半数以上は後に家庭犬として暮らせるようになった。

Best Friends Animal Societyは22頭を受け入れ、「Vicktory Dogs」と呼んだ。すべての犬が同じ回復経路をたどったわけではない。長期のケアを必要とした犬も、法的な制限のもとで保護施設に暮らし続けた犬もいた。それでも、出自だけで一律に処分せず、個体ごとに評価する考え方が広がったことは、事件の重要な遺産である。

5. NFL復帰と「カムバック」の限界

Vickは2009年に控えQBとしてNFLへ戻り、2010年にはEaglesの先発となった。同年、Pro Bowl選出とAP Comeback Player of the Yearを受賞した。競技面だけを見れば、服役後の復帰はNFL史上でも特異なカムバックだった。

しかし「Comeback Player」という表現は、競技成績の回復を示す賞であり、犯罪被害が償われたことを意味しない。事件をVickの再生だけで完結させると、被害を受けた犬、保護に携わった人々、動物闘争をめぐる制度変化が背景へ追いやられる。

VickはThe Humane Society of the United Statesとともに学校などで反闘犬活動を行い、2011年には動物闘争の観戦や子どもの同伴を連邦犯罪とする法案を支持した。関連規定は2014年のFarm Billに盛り込まれた。ただし、法改正をVick一人の成果とすることはできず、長年活動してきた議員、捜査機関、保護団体の取り組みの一部として位置づけるべきである。

2017年、U.S. Navyのイベントへ参加したMichael Vick(撮影: Justin Wolpert / U.S. Navy, 2017年, パブリックドメイン, Wikimedia Commons より)2017年、U.S. Navyのイベントへ参加したMichael Vick(撮影: Justin Wolpert / U.S. Navy, 2017年, パブリックドメイン, Wikimedia Commons より)

6. 事件が残した基準

Bad Newz Kennels事件は、NFLスターの犯罪として大きく報じられたが、より長く残ったのは救出犬への対応だった。ASPCAはこの事件を、闘犬から救出された犬を犯罪の証拠物や加害側の道具ではなく、被害者として扱う転換点の一つと位置づけている。

Vickの刑期、NFL処分、復帰はすべて記録できる。だが、道徳的な評価をリーグ復帰の可否だけに置き換えることはできない。法的な刑を終えたこと、職業へ戻る機会を得たこと、被害が帳消しになったことは、それぞれ別の問題である。

この事件を理解する基準は「Vickは復帰に成功したか」だけではない。救出された犬がどう扱われ、その後の闘犬事件で何が変わったかまで追うことで、初めて事件全体が見える。

7. 出典

United States v. Michael Vick — Summary of Facts
連邦裁判所へ提出された合意事実 — Bad Newz Kennelsの運営、闘犬、犬の殺害に関するVickの認定内容
abcnews.go.com
Timeline of Michael Vick's legal troubles
NFL.com — 2007年の捜索から判決、服役までの時系列
nfl.com
Commissioner Goodell reinstates Vick on condition
NFL.com, 2009年7月27日 — 条件付き復帰の公式発表
nfl.com
How the ASPCA Helped Change the Response to Dogfighting
ASPCA — 救出された犬の個体評価と、事件後の保護方針の変化
aspca.org
The Vicktory Dogs
Best Friends Animal Society — 受け入れた22頭の犬と長期的なリハビリ
bestfriends.org
New Federal Law on Animal Fighting
U.S. Department of Justice — 2014年に施行された動物闘争の観戦・児童同伴に関する連邦法
justice.gov