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NFLサラリー談義

Michael Thomasが年俸$60MのWRになった経緯〜ロースターボーナスの役割とは?

Ames · 2023年2月14日


Michael Thomasが年俸$60MのWRになった経緯〜ロースターボーナスの役割とは?

Spotracに「2024年のキャップヒット$59M」と表示されているMichael Thomasのページを見て、驚いた方も多いと思います。

WR最高額を伝えるツイート:

確かに、Rodgers、Mahomes、Watson、Wilsonなど数あるQB陣を抑えて堂々の1位です。

SpotracのNFLキャップヒット総額ランキングを晒したツイート:

これを見たら驚くのも無理はありません。ただ、以下に経緯を書くように、仕組みを理解すると実態はかなり異なります。

1. 2つの前提

1.1. Michael Thomasは度重なる怪我+チーム状況のためリリースが既定路線

2020年以来怪我が長引き、やっと復活した2022年も(出た試合は大活躍でしたが)再度怪我をしたこと、そして翌年・翌々年のキャップヒットが大きいことを踏まえ、SaintsはMichael Thomasのリリースを決断しました(2021年11月にIRに入れて今期絶望となった時点から言われ始めていました)。

2021年のThomasの怪我・IR入りを伝えるツイート:

1.2. SaintsはサラリーキャップがNFL最下位クラスの状況

毎年、サラリーキャップの余りの表の最下位の常連です。2023年の新年度開始(3/15)までに、$50M以上超過しているサラリーキャップをプラスにしなければいけません。

SaintsのNFL全チーム中最下位のキャップ残高:

2. Thomasの元々の契約とデッドマネー

リリースするとなると気になるのが デッドマネー。「支払い済み・保証済みのサラリーは戻って来ず、必ず計上される」という原則に則って、チームにいなくてもサラリーキャップに計上されます。

元々の契約(2020–2024の5年$96M)の残り明細は下の図の通りです(Workout Bonusなど細かいものは省いています)。

Michael Thomas元々の契約(2023〜2024年残り分、図はSaintsCap.comより)Michael Thomas元々の契約(2023〜2024年残り分、図はSaintsCap.comより)

今すぐ(2022終了後)カットした場合は、2023年以降のサラリーのうちSigning Bonus + Restructure分の合計約$25M(既に支払済)がデッドマネーとして計上されます。逆に、2023年と2024年のBase Salary $34Mは払う必要がありません。このデッドマネーは、基本的に一括で2023年にヒットします。

3. デッドマネーが高いので「June 1 Cut」制度を使って今年分を減らそう

しかし、Saintsのキャップ状況的にこの$25Mが2023年に全額ヒットするのは避けたい。そこで 「Post June-1 Designation」制度 を使います。

Post June-1 Designationとは

NFLでは選手をカットした場合の扱いが時期によって異なります:

  • 6/1まで: デッドマネーは全額その年にヒット
  • 6/2以降: デッドマネーが2年に分割される(翌年以降分のデッドマネーは翌年にヒット)

例外的に、6/1までのカットでも年に2人まで「6/2以降扱い」にすることができます。

Explaining June 1 Salary Cap Implications in the NFL
The 33rd Team — June 1 Cutのキャップへの影響を解説
the33rdteam.com
↗

Thomasの場合、6/1以降扱いにすれば、デッドマネーは 2年に分割されて2023年が$11.8M、2024年が$13.8Mのヒット になります。これなら大分楽です。(この手法は引退する選手でもよく使います。NOでもBreesの引退時に2年分割を適用しました。)

4. June 1 Cut だと、新年度開始前のキャップがきつい…

ところがこの場合、新たな問題が発生します。

Post June-1 Designationを行うためには、SaintsはThomasをリーグ新年度開始(3/15)までキープしなければならず、その場合2023年度のベースサラリー$15.5Mもキャップに計上 されます。Saintsは来年のサラリーキャップが$60M超過で、新年度までにこれをゼロにする必要があるため、これは辛い。

つまり:

  • 早くカットしたら、2023年ヒットのデッドマネーが増える
  • 遅くカットすると、新年度開始までにキャップ収支を合わせるのが大変

というジレンマに陥りました。

5. Thomasに頼んで、契約を見直してもらおう

このジレンマを解決するため、SaintsはThomasと交渉し、契約の見直しを行いました(2023/1/7)。主な変更点は以下の3つです。

Michael Thomas再構築後の契約概要(SaintsCap.comより)Michael Thomas再構築後の契約概要(SaintsCap.comより)

5.1. 来年のBase salaryを$15.5M → $1.165M(最低年俸)に減らす

これによって、来年のキャップヒットが$14M減ります。新年度開始までの帳尻を合わせやすくなりました。

見かけ上は減俸ですが、2023年シーズンWeek 1から振り込まれる金額のため、その前にリリースされるThomasからするとどのみち手元には入らない金額で、減っても損はありません。

5.2. 追加で$0.9MをSigning Bonusとして支払い

SaintsからするとStrictly言えば損ですが、ThomasがこのSigning Bonusを受け取ることで契約見直しに応じてくれることへのお礼のようなもの です。この額で済んでいること自体、チームとThomasの関係が悪くないことを示しています。

5.3. 追加で$31Mを2024年のRoster Bonus(2023/3/17にフル保証)として計上

元々なかった多額のRoster Bonusを2024年(翌年)に追加しました。理由は後述します。

6. 選手目線の問題「カットするなら早くして!」

Saints側としては、これでジレンマ解決です。あとはThomasの契約にノータッチで、新年度になってからカットするだけ。

ところが、この契約見直しによって、Thomas側に「このままだといつカットされるか分からない」という問題が出てきます。

なぜそれが問題かというと、意外かもしれませんが 選手からすると「カットされる場合はなるべく早くカットされたい」のです(超重要)。

新年度が始まるとすぐFAが開始。開始直後に大物は行き先を決めます(JC JacksonやVon Millerの例を思い出してください、3/14からの1週間で決まりました)。大型契約が決まるのは大体この時期です。その後ドラフトを経て 各チームのロースターはどんどん固まっていき、各チームのキャップスペースは単調減少 します。

そんな中、6月以降にカットされてしまうと、交渉できるチームは限られ、良い契約を勝ち取れる可能性は低くなります。それを避けるため、リリースされる場合は可能な限り早く出て、FA期間の初めの方で多くのチームと交渉するのが重要なのです。

7. ロースターボーナスは、3月リリースの約束のためだった!

つまり、ThomasのFA期間の機会を増やすため、「Saintsが早い時期にリリースせざるを得なくなる理由」が必要 でした。このために「2024年支払いのRoster Bonus $31M」を追加したのです(上記5.3.)。

Roster Bonus(ロースターボーナス)とは

サラリーの種類の1つで、「ある期日にチームに所属していたら支払われるボーナス」です。通常のBase Salaryはシーズン中の17週間に分けて支払い(オフシーズンはなし)なのに対し、Roster Bonusは多くの場合オフシーズンに設定されて一括で支払いとなります。その期日を過ぎると支払いが確定するため、その前にカット/トレードなどの決断をチームにさせる(=選手はカットされる場合早く出られる)という役割があります。

Thomasのロースターボーナスは支払い自体は2024年ですが、2023/3/17にフル保証(この期日以降だとカットしても支払う) する条件がついています。これにより、Saintsは3/17までThomasをキープしていたら2024年に多額のサラリーが発生するため、それまでにリリースする必要性が生まれます。これでThomas側の問題も解決です。

おそらく、新年度開始直後の3/15か3/16にPost June-1 Cutでリリースされ、ThomasはFAの一番盛り上がる時期に加わります。

ちなみに、このロースターボーナスは$1Mや$2Mのような少額ではダメです。キープするリスクが減ってしまい、「多少払ってでもギリギリまで置いておけば行き先なくなって安く再契約できるかも…トレードできるかも…」という邪念がSaints側に生まれかねません(ガロポロのケース がまさにこれ)。そこで 「確実に払えない、トレード先も見つからない」という額を設定した結果、$31M(キャップヒット$59M)になったわけです。

8. 余談:他のロースターボーナス/保証期日の活用例

「カットされる場合はなるべく早くカットされたい」は非常に重要な原則で、契約する時点で盛り込まれることも多いです。

最近の事例として、Derek Carr(LV) が2/15にサラリーがフル保証されるためにその前にリリースされそうになっているのも、リリースの場合は早めに市場に出たいためです。「スーパーボウル直後にクビは可哀想」という反応を見ましたが、逆です。早くリリースされた方が本人のためになります。

逆に、Jimmy Garoppolo(SF) はシーズン前に支払期日があるRoster Bonusが設定されておらず、契約最終年は保証なしのBase Salaryだけだったため、SFは開幕直前までノーリスクでガロポロをキープでき、結局トレード相手は見つからなかったものの、「今からリリースされてもどのチームもQB決まってる」という状況になってから安く契約を再構築しました。

最近結ばれた契約でも、Roquan Smith(BAL) の契約は分かりやすく最後の2年だけRoster Bonusが設定されています。リリース対策です。

Roquan Smith契約内訳(SaintsCap.comより)Roquan Smith契約内訳(SaintsCap.comより)

ラスト2年だけ、新年度開始直後のロースターボーナスが設定されています。2025年までは保証されているため、デッドマネーの大きさがリリースから守ってくれます。

9. まとめ

以上が、この件についての私の理解です。まとめると:

  • Michael Thomasのリリースはほぼ決定事項
  • 1月にSaintsが再構築したのは、キャップ事情のため(June 1 Cutを使いやすくするため)
  • 来年の$59Mはリリースの約束のため「絶対に払えない高い金額」をあえて設定したもので、実際にはどのチームも支払うことはない

知らないと驚くのは当然ですが、騒ぐようなことではないとご理解いただけたら幸いです。


【追記】 その後、SaintsとThomasが契約見直しについて話し合っているとの情報が出ました。Derek Carrのリクルートにも積極的に関わっているようで、来年のロースターボーナスをなくす+ペイカットの上で残留の見込みのようです。

The Checkdownによる2020年シーズンのMichael Thomas情報:

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