- 出来事: Marshawn Lynchが自陣33ヤードから複数のタックルを振りほどき、67ヤードを走り切ったTD
- 場面: 2011年1月8日、NFCワイルドカード。残り3分38秒、Seattle SeahawksがNew Orleans Saintsを34–30でリードした2nd&10
- 結果: 残り3分22秒にTDが記録され、PATで41–30。Seattleは41–36で前年王者を破った
- 名前の由来: 「Beast Mode」と呼ばれたLynchのランと、観客の歓声・跳躍による地面振動が近隣の強震計に記録されたことを組み合わせた呼称
- 注意点: 強震計が捉えたのは観客由来の振動であり、自然地震が起きたわけではない
67ヤードランの映像:
プレーのブロック解説:
1. 7勝9敗の地区王者
2010シーズンのSeattle Seahawksは7勝9敗でNFC Westを制した。負け越しながら地区優勝でプレーオフへ進んだ最初のフルシーズン球団となり、ワイルドカードでは11勝5敗のNew Orleans Saintsをホームへ迎えた。
Saintsは前年のSuper Bowl XLIV王者で、Week 11の直接対決でもSeattleを34–19で破っていた。対するSeahawksはシーズン中にBuffalo BillsからMarshawn Lynchを獲得したばかり。LynchのSeattle加入後のレギュラーシーズン成績は12試合で573ラッシングヤードにとどまり、この時点ではまだ「Beast Mode」がSeattleの象徴になる前だった。
試合は予想と逆方向へ進んだ。Saintsが10–0と先行したが、SeattleはMatt Hasselbeckの4TDパスで逆転。前半を24–20、後半最初のTDで31–20とリードした。
Beast Quakeと同じ2011年1月8日の試合でボールを運ぶMarshawn LynchとMike Williams(撮影: Kelly Bailey, 2011, CC BY 2.0, Wikimedia Commons より)
2. 残り3分38秒、2nd&10
第4クォーター、SaintsはSean PaytonとDrew Breesのオフェンスで34–30まで追い上げた。Seattleは残り4分20秒、自陣33ヤードから時間を使い切るためのドライブを始める。
1st downのLynchのランはノーゲイン。残り3分38秒、2nd&10。Seattleが短いランを重ねて時計を進めると読まれやすい場面で、オフェンスはこの日初めてパワーラン「17 Power」をコールした。
IフォーメーションからFB Michael Robinsonが先導し、右G Mike Gibsonが左へプルする設計だった。Saintsは8人をボックス付近へ集め、ランを止める人数をそろえていた。プレーは、設計通りにきれいな走路が開いたから成功したわけではない。
3. 67ヤードを走り切った16秒
Lynchは本来のリードブロッカーの後ろではなく、その内側へ進んだ。Scott Shanleが最初に接触したが、Lynchは止まらない。Sedrick Ellis、Will Smithらの腕を抜け、密集を突破した。
オープンフィールドへ出た後も追走は続いた。Jabari Greerのタックルを振りほどき、右サイドラインへ角度を変える。最後に追いついたTracy Porterを左腕のスティッフアームで地面へ押し倒し、Roman Harperのダイブも届かなかった。Lynchはゴール前で後ろ向きに跳び、エンドゾーンへ入った。
公式記録は簡潔である。
"M. Lynch right tackle for 67 yards, TOUCHDOWN."
(「M. Lynchが右タックル方向へ67ヤード、タッチダウン」)
プレー開始は残り3分38秒、得点記録は3分22秒。Olindo MareのPATで41–30となった。Saintsは残り1分52秒にBreesからDevery HendersonへのTDパスで5点差へ迫ったが、2点コンバージョンに失敗。Seattleがオンサイドキックを確保し、41–36で逃げ切った。
4. 地震計が記録した「12th Man」
スタジアムから1ブロックほど離れたPacific Northwest Seismic Network(PNSN)の強震観測点KDKは、Lynchのランと観客の祝福が起きた時間帯に明瞭な振動を記録した。
PNSNのJohn Vidaleは後に、観測されたピーク加速度を重力加速度の約2万分の1、ピーク変位を約100分の1ミリと説明している。一つの観測点だけの信号は検証が難しいものの、時刻がプレーと一致し、同シーズンの他のホームゲームと比べても同程度の振幅、継続時間、周波数成分を持つ信号はなかった。
"Peak acceleration of about 1/20,000th of a g."
(「ピーク加速度は重力加速度のおよそ2万分の1」)
ここで記録されたのは、断層が動いた自然地震ではない。数万人が同時に叫び、跳び、足を踏み鳴らしたことで生じた地面の振動である。「12th Man Earthquake」、そしてLynchの愛称「Beast Mode」と組み合わさった「Beast Quake」という名前は、この二つの出来事を一語にした。
Qwest Fieldで掲げられる12th Man Flag(撮影: Philip Bebbington III, 2007, CC BY-SA 3.0, Wikimedia Commons より)
5. Beast Quake 2.0
2014年12月21日、LynchはArizona Cardinals戦で再び同じ名前を呼び起こした。第4クォーター、自陣21ヤードから79ヤードTDを記録。密集を抜け、複数のタックルを外し、ゴール前で後ろ向きに跳ぶ姿まで2011年を思わせたため、NFLとSeahawksは「Beast Quake 2.0」と呼んだ。
Beast Quake 2.0の映像:
Beast Quake 2.0 | Seahawks vs. Cardinals(NFL公式) — YouTube で見る ↗ただし、2.0はArizona開催であり、Seattleの強震計に観客振動が記録された2011年の逸話とは別である。共通するのは地震計ではなく、Lynchが接触を受けながら長距離を走り切ったプレースタイルと、その映像が初代を連想させたことだった。
6. Seattleの転機
Seattleは次のディビジョナルでChicago Bearsに敗れたため、Beast Quakeがその年のSuper Bowlへ直結したわけではない。それでも、7勝9敗の地区王者が前年王者を破った試合と、シーズン途中加入のLynchが球団文化の中心へ変わった瞬間を一つのプレーが象徴した。
NFLの100周年企画「100 Greatest Plays」では13位に選ばれた。優れたランは他にもあるが、プレーの物理的な強さ、番狂わせの文脈、観客が実際に残した観測記録までが一つになった例はほとんどない。
この試合には、後にバウンティゲート事件で公表されるSaintsの報奨金制度という別の文脈も重なった。その後もSaintsはミネアポリス・ミラクルやNOLAノーコールなど劇的なプレーオフ敗退を経験する。しかしBeast Quakeが特別なのは、敗れた側の悲劇以上に、LynchとSeattleの観客が同じ16秒で残した共同作品として記憶されている点にある。